戦国異伝
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第百二話 三人衆降るその七
難しい顔になった。それでこう言うのだった。
「難しいかと」
「鬼若子はかなり誇り高い者と聞いております」
「それで織田家に加わるか」
「如何でしょうか」
「何、虎は虎を知る」
「虎は虎を?」
「といいますと」
「察しておるであろう」
柴田も丹羽もふと気付いた顔になっているのを見てだ。信長は楽しげなその笑みで言うのだった。確かな声で。
「わしはあの者のことがわかる」
「虎であるが故に」
「その為に」
「そうじゃ。わかる」
また言ったのだった。
「だからこそじゃ」
「あの者は織田家に降る」
「そして家臣になると」
「そういうことじゃ。それでじゃ」
信長はさらに言った。
「これで土佐も手に入れば大きいのう」
「四国の大部分もですから」
「それは確か似ですな」
「かなり大きいかと」
「天下布武にまた大きく進みますな」
柴田も丹羽もそこは言う。
「そして次は伊予でしょうか」
「あの国か」
四国の残る一国だ。四国全体から見て北西にある国である。柴田はそこも手に入れるかと問うたのである。
「そうされますか」
「いや、四国は土佐まででまずは充分じゃ」
「充分ですか」
「うむ、充分じゃ」
そうだというのだ。
「伊予は毛利も入ってきておる。そして毛利と九州の大友とも海を挟んで向かい合っている」
地理的にそうなっている。だからこそ毛利は伊予にかなりこだわっているのだ。
「そこを下手に手に入れればじゃ」
「いらぬ戦に巻き込まれますな」
丹羽も言う。
「毛利家の押さえにはありますが」
「そして大友のな」
この家もあった。
「それは大きいがのう」
「それでもですな」
「土佐まで手に入れれば政に専念したい」
これまで手に入れた全ての国を見ての言葉だ。
「だから伊予を手に入れて毛利、大友と揉めるのはな」
「今は避ける」
「そういうことですか」
「その通りじゃ。伊予には今は手は出さぬ」
これは信長の出した結論だった。
「そして今はじゃ」
「すぐに土佐に向かいましょうぞ」
「それでは」
二人も頷いてだ。そのうえで。
織田家の主力もまた土佐との境に向かうのだった。その中でだ。
羽柴は馬上において傍らで馬を進める明智に対して問うた。その問うこととは。
「ところで明智殿のご息女ですが」
「三人いますが」
明智はその羽柴に顔を向けて答えた。
「それが何か」
「三人ですか」
「はい。どれも妻に似ていい顔立ちをしていますが」
その中でだというのだ。
「三番目の娘が特によいです」
「三番目のご息女がですか」
「たまといいます」
明智は自分からその娘の名前を出した。
「これからが楽しみな娘です」
「左様ですか」
「はい、そうです」
こう言うのだった。
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