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戦国異伝

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第百一話 海での戦その八


「少しでも領地を増やそうと動いてくるかも知れません」
「それはしてくるであろうな」
「ではすぐに阿波も攻めましょう」
「そうじゃな。しかし土佐もじゃ」
 信長はその土佐の話をした。
「どうしたものかな」
「土佐も手に入れられますか」
「どうしたものであろうな」
 今は一呼吸置いてだ。信長は言った。
「あの国もな」
「攻め取られますか」
「考えておこう。それもな」
「ですか。では最後の国は」
「伊予か」
「あの国はどう為されますか」
「あの国は特によい」
 いらないというのだ。
「別にな」
「それは何故でしょうか」
「伊予を手に入れると瀬戸内の西にも出るな」
「はい」
 伊予は山陽にも九州にも海を挟んで開けている。まさにこの国を手に入れればというのである。
 そのことをだ。彼は言うのだった。
「そうなります」
「そうなれば毛利や大友とかち合う」
「毛利ですか」
「今は揉めたくはない」
 それはだというのだ。
「戦は常にするものではないからな」
「では今は」
「四国はわからぬが伊予は攻めぬ」
 それは絶対にというものだった。
「何があろうともな」
「そうされますか」
「うむ。ではじゃ」
 竹中らに話しそうしてだった。
 彼等は讃岐に向かっていた。一見すると彼等の前に敵は存在してはいなかった。だがそれでもだった。
 織田家の敵は多い。それは例えば浅井家でもだった。
 竹中はそっとだ。信長に彼のことを話したのだった。
「殿、浅井殿ですが」
「あの家か」
「気になることがあります」
「何じゃ」
「はい、猿夜叉殿はともかく」
 だがそれでもだというのだ。
「お父上は」
「あの御仁か」
「隠居はしていますが」
 だがそれでもだというのだ。
「まだ力がありますので」
「家の中でじゃな」
「あの方は朝倉家との縁が強いです」
「うむ、確かにな」
 これは浅井家の始祖である亮政の頃からだ。
「あの家義理堅いからのう」
「そしてそれ故にです」
「裏切るというか」
「考え過ぎでしょうか」
「そう思うがのう」
 実際にこう返す信長だった。
「幾ら何でもな」
「左様ですか」
「それは御主もであろう」
「それがしもですか」
「そうじゃ。浅井が裏切ると思うか」
「いえ」 
 竹中の返答は一言だった。それだけで充分だった。
「それはどうも」
「そう思うのう」
「久政殿は朝倉寄りでしかもまだ力がおありですが」
「それでもじゃな」
「大きく動く方ではありませぬ」
「では浅井は大丈夫か」
「そうかと」
 竹中は静かに答える。 
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