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戦国異伝

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第百一話 海での戦その五


 そして海でもだ。今それをするというのだ。
「ではよいな」
「はい、後は二郎殿の命のままです」
「それがあれば」
「ではな」 
 九鬼は采配を振り上げた。そのうえで。
 鉄砲の間合いに入った、敵が弓を引き油壷に火を点けようとしたその時にだった。
「撃て!」
「撃て!」
 九鬼が采配を振り下ろすと同時に火矢も上がった。それと共に。
 左右の舟の陣から鉄砲が一斉に放たれる。そうしてだった。
 三好の兵達はその鉄砲を受けて多くの兵が倒れていく。それと共にだった。
 彼等は驚いた。まさに晴天の霹靂だった。
「馬鹿な、海の上で鉄砲だと」
「鉄砲を放ってきただと」
「そんなことが出来るのか」
「嘘ではないのか」
 誰もがそう思った。しかしだった。
 九鬼の軍勢が鉄砲を放ったのは確かだ。それでだった。
 鉄砲を放った彼等を見て呆然となっていた。
 そこにだ。九鬼は鉄砲の弾を込めさせ再び撃たせる。三好の軍勢は思いも寄らぬ鉄砲の攻撃に自分達が弓矢や油壷を放つどころではなくなっていた。
 そこにだった。柴田率いる軍勢が突き進む。柴田は自ら槍を手にして言う。
「よいか、このまま乱れておる敵陣に入りじゃ」
「近寄りそしてですか」
「一気に」
「槍で突き舟に乗り込みじゃ」
 そしてだとだ。今も己の後ろにいる前田と池田勝正に話す。
「斬れ。一気に決めるぞ」
「ううむ、権六殿らしいですな」
 前田も自慢の朱槍を持っている。それは慶次のものと比べても全く引けを取らない。その槍を手にして言うのだった。
「海の上でもそうして戦われますか」
「確かに舟で戦をしたことはないわ」
 それは柴田も認めることだった。だが、だったのだ。
「しかしじゃ。戦ならばじゃ」
「勝手は同じですか」
「うむ」
 その通りだとだ。柴田は今度は池田勝正に答えた。先陣の彼の後ろには佐久間が率いる第二陣が続いている。
 そして丹羽の第三陣に滝川の右軍に羽柴の左軍だった。織田家の軍勢は海の上でもかなりの数だった。
「揺れるがそれでもじゃ」
「戦ならばですか」
「掛かるまでと」
「そういうことじゃ。では掛かれ」
 柴田が戦の時に常に言う言葉だ。掛かれ、というその言葉がそのまま柴田の仇名である掛かれ柴田にもなっている。尚もう一人の織田家の武の看板である佐久間は退く際の殿軍が得意であり粘り強い戦をするので退き佐久間と呼ばれている。
 その柴田がだ。自ら槍を手に先陣のさらに先頭に立ち。
 思いも寄らぬ九鬼の鉄砲隊の攻撃を受けて傷を受けただけでなく呆然とさえなっている彼等にだ。そのままだった。
 槍で突きを入れた。それは銛の様に突き刺さり。
 三好の足軽を一人貫いた。その貫いた槍を。 
 柴田は思いきり横に振った。すると三好の足軽はその横に投げ飛ばされ味方を三人程巻き込んで海に落とされた。これが合図だった。
 織田家の軍勢は槍を突き出し舟に乗り込み刀を振るって三好の兵達を次々と倒していく。九鬼の兵達はさらに鉄砲を放ち柴田達の攻めを助ける。
 戦は思いもよらぬ状況になっていた。少なくとも三好にとっては。
 三好の兵達は次々と海に落ち舟が沈む。それを見てだった。
 信長は舟の上の本陣において会心の笑みを浮かべていた。そしてこう言った。
「よいぞ」
「これが二郎殿の策ですな」
「うむ、海の上で鉄砲を使う」
 このことを生駒にも言う。
「これはかなりな」
「誰も思わないものですな」
「海には潮もあるからのう」
 その潮風が厄介なのだ。普通の川の上ならばそれ程気にはならない。 
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