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戦国異伝

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第百一話 海での戦その四


「そして鮫の餌にしてやれ」
「わかっております。織田の者達を四国には入れさせません」
「ここで攻め滅ぼしてやりましょう」
「これまでは散々にやられましたが」
「今度は我等の番ですな」
「うむ、そうじゃ」
 その通りだとだ。将も言い。 
 全軍に弓と油壷の用意をさせた。そのうえで織田の水軍に向かう。その動きは己の軍を左右に展開させた九鬼からも見えていた。
 九鬼はその彼等を見てだ。傍にいる者に言った。
「ではじゃ」
「それではですな」
「今より」
「攻める合図をせよ」
 まずはこう言ったのだった。
「よいな」
「はい、それでは」
「火矢をですな」
「それを放った時にじゃ」
 言いながらだ。彼は己の舟の後ろを見た。そこには麻の覆いがあり何かを隠していた。その隠しているものを観ながら言うのだった。
「一斉に放つぞ」
「その時にですな」
「いよいよ」
「まずは引き付けよ」
 そうせよというのだった。
「そして引き付けてじゃ」
「そうしてですね」
「そのうえで」
「うむ、撃つのじゃ」
 今この言葉を出した九鬼だった。
「敵を引き付けてな」
「そうしてですな」
「敵が弓なり油壷を放つ前に」
「その前に」
「その直前でじゃ」
 まさにだ。放たんとするその瞬間にだというのだ。
 九鬼は己が率いる兵達に用意をさせた。そのうえでだ。
 三好の兵達に左右から迫る。それを受けてだった。 
 三好の兵達も弓を構え油壷を用意しだしていた。
 九鬼はそれを見ながらだ。兵達に告げた。
「麻の覆いを取れ」
「はい。それでは」
「今から」
 それぞれの舟にかけられていた麻の覆いが取り払われる。するとだった。
 そこには鉄砲があった。九鬼はその鉄砲を見下ろしながら言った。
「この鉄砲こそがじゃ」
「この戦を決めるものですか」
「この戦もじゃ」
 九鬼は不敵な笑みを浮かべて家臣の一人に答えた。
「我等は今まで鉄砲で勝ってきたな」
「はい、丘の上では」
「そうしてきました」
「それは海の上でも同じじゃ」 
 水の上で戦う水軍も同じだというのだ。だがこれまで水、海の上で鉄砲を使う戦はというとだ。
「しかしこれまではじゃ」
「はい、海の上で鉄砲を使うとなると」
「それは」
「海の水っ気を含んだ空気や潮風で火縄がやられる」
 九鬼は自ら言った。実際にそうなって海の上で鉄砲を使うということは考えられなかったのだ。だがそれをだったのである。
 九鬼は使う直前まで麻で覆い火縄が湿るのを防いだ。そしてだった。
 兵達に鉄砲を構えさせてだ。こう言ったのだった。
「よいな、撃て」
「狙いはあやふやになりますが」
「舟が揺れております故」
「しかしですか」
「それでもですな」
「一発で撃ってもどうにもならぬ」
 ここで言うのは数だった。
「しかし多く撃てばじゃ」
「当たりますか」
「下手な鉄砲もですな」
「それに多く撃つとじゃ」
「ああ、音ですか」
「音ですな」
「そうじゃ。鉄砲の音は一発一発でも大きい」
 まさに轟音だ。その音で驚かせるという効果もあるのだ。実際に織田家はそれで敵を怯ませもしているのだ。 
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