戦国異伝
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第百一話 海での戦その一
第百一話 海での戦
信長率いる織田家の軍勢は堺に集まっていた。そこの港からだ。
次々に船に乗り込んでいく。その彼等を見てだ。
信長は港において腕を組みこんなことを言った。
「間違いなく。讃岐に入るまでにじゃ」
「はい、三好の水軍が来ます」
すぐにだ。生駒が応える。
「確実に。しかし」
「そこで勝たねばな」
「四国に入ることはできませぬ」
例え十万の大軍を揃えていてもだ。そこで勝たねばだというのだ。
「到底無理です」
「そうじゃな。間違いなくな」
「ですからここはです」
「勝つぞ」
信長は腕を組んで言った。そうしながら港で船に乗り込んでいく足軽達を見ていた。そのうえでの言葉だった。
「今度もな」
「その為の策は」
「わしが持っている」
九鬼が生駒に述べてきた。
「既にな」
「その策とは」
「陸と海でも同じことがある」
九鬼は鋭い目で言う。
「それをやる」
「ふむ。そうなると」
気付いた顔でだ。生駒は頷いた。
そのうえでだ。考える顔になり言うのだった。
「あれですか」
「甚助殿も察した様だな」
「おおよそですが」
そうだとだ。生駒も言葉を返す。
「それを為されますか」
「殿、それでなのですが」
九鬼は信長にも顔を向けてだ。そのうえで信長にも話したのだった。
その話を聞いてだ。信長は笑みを浮かべて応えた。
「ではじゃ」
「それで宜しいですか」
「そうしてみよ。しかしじゃ」
「はい、水のことはわかっています故」
「ならよい。存分にやれ」
「畏まりました」
こうした話をしてだった。小田郡は次々と舟に乗っていく。十万の大軍だがその乗る動きはかなり速いものだった。
そうしてまずは九鬼と柴田だった。それぞれの船団が讃岐に向かって進んでいく。
その中でだ。柴田は己の舟の上から前を見据えて直属の家臣達にこう言ったのだった。
「出て来ると思うか」
「三好ですか」
「あの者達がですか」
「そうじゃ。三好の水軍は中々定評がある」
瀬戸内の東を押さえているだけはあるというのだ。
「それが出て来るか」
「出て来るでしょうな」
彼の横には直属の家臣達の他に前田や池田勝正といった面々がいる。織田家の中で戦上手の面々が揃っている。
その前田がだ。柴田にこう言ってきたのだ。
「向こうにしても後がありませんから」
「そうじゃな」
「今頃必死に我等を捜しておりますぞ」
前田も前を見ながら言う。
「ですから我等も」
「敵を捜すか」
「そうですな。こうして周囲を見回していますが」
冬の海は黒い。青というよりは黒くその黒は鉛の様だった。その鉛の海を見回しながらこう言うのだった。
「さて。海の戦というのは」
「はじめてだからか」
「敵を見つけることも勝手が違いますな」
「いや、同じじゃ」
しかし柴田はその前田にこの言葉を返した。
「それは同じじゃ」
「戦だからですか」
「そうじゃ。同じじゃ」
これが柴田の見立てだった。
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