戦国異伝
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第百話 浅井の活躍その十三
だからこそだ。彼は堂々とこう言うのだった。
「余は将軍じゃぞ。将軍ならばじゃ」
「織田殿へのご説教もよい」
「そう仰るのですか」
「そうじゃ。将軍じゃぞ」
とにかく義昭の言うことの根拠はここにあった。
「武門の棟梁ではないか」
「それはそうですが」
「ですが。織田殿には」
「それは」
幕臣達はわかっていたのだ。天下で真に力があるのは誰か。それは最早義昭以外の者には言うまでもないことだった。
それで口ごもるがしかしだったのだ。義昭だけは。
「全く。信長はどういうつもりじゃ」
「まあそう仰らずに」
「織田殿は戻って来られますので」
「その時にお話しましょう」
「それで宜しいでしょうか」
「そうせよというのじゃな」
義昭も彼等の言葉を聞く。一応はそうしたのである。
しかしその顔はむくれていてだ。こう言ったのだった。
『何でもすぐに言わねばならんと思うが。そうじゃな」
「そうじゃとは?」
「今度は一体」
「筆と硯をもて。無論墨もじゃ」
この三つを用意せよというのだ。
「よいな。すぐにじゃ」
「文でしょうか」
「信長に書く」
その為にだ。用意せよというのである。
「将軍としてじゃ。信長には伝えておこう」
「文で、ですか」
「そうされますか」
「それならよいであろう。とにかく余は将軍じゃ」
ここでもこう言うのだった。とにかく義昭は将軍だった。このことを誰よりも自負しているが故にこう言うのだった。
「将軍として信長に伝えておくわ」
「ではそうされますか」
「今は」
「文ならば目の前におらずとも伝えられる」
だからいいというのだ。義昭にとって。
「ではすぐに書くぞ。してじゃ」
「はい、我等の中で織田殿の戦に加わりたいならば」
「加わって宜しいですか」
「憎き三好を滅ぼすまたとない好機じゃ」
だからだとだ。義昭はこのことについては快諾した。
そしてだ。こう話してだった。
義昭は文を書くのだった。彼はとにかく書くのだった。言うことができなければ書くまでのこと、それが義昭だった。
その彼をよそに織田軍は和泉に向かう。和泉の堺の港においてだ。
九鬼はしかとした顔で目の前の青い海を見ながらだ。確かな笑みで言うのだった。
「間も無くじゃな」
「はい、間も無くですな」
「この海を渡り四国に入る」
「そうされますな」
「瀬戸内は西は毛利が手中に収めておる」
ここで九鬼はこうしたことを言った。
「そして東はじゃ」
「その三好ですな」
「あの者達ですな」
「うむ、今の我等の宿敵じゃ」
その宿敵は陸では勝ってきている。まさに連戦連勝である。だが海ではどうかとだ。九鬼は周りの兵達に言うのである。
「その三好の水軍は侮れぬ」
「そうですな。強いです」
「これまで四国と淡路、近畿の航路を守ってきています」
「その力は確かなものです」
「敵としては手強いかと」
「その通りじゃ。しかし我等もじゃ」
伊勢志摩の水軍、彼等もだというのだ。
「伊勢志摩で戦ってきたからのう」
「はい、自信jはあります」
「あの者達に勝つ自身が」
「我等の腕を見せてやる。それにじゃ」
それに加えてだというのだ。
「今使者が来た。先陣は権六殿じゃ」
「おお、あの方ですか」
「あの方が先陣ですか」
「今回も頼りになりますな」
「あの方ですと」
「あの御仁は戦上手よ」
ただ勇猛なだけではない。そこには確かな采配がある。柴田は織田家きっての猛者というだけではないのだ。
それを知っているからだ。九鬼も言うのだった。
「共に進むのなら問題はない」
「勝てますか」
「確かに」
「うむ、間違いなく勝てる」
また言う九鬼だった。
「一気に讃岐まで渡るぞ」
「はい、敵の水軍が出てもですな」
「勝ちますか」
「淡路も手に入る」
近畿と四国の間にあるだ。その島もだというのだ。
「間違いなくな」
「さて、讃岐に阿波に」
「あの島も手に入れましょうぞ」
水軍の兵達もこうした話をする。そうしてだった。
織田軍は和泉に着き堺の港に向かった。そこから四国、遂に三好の本拠地に向かい決戦を挑むことになるのだった。
第百話 完
2012・7・20
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