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戦国異伝

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第百話 浅井の活躍その十二


「だからじゃ。誘おう」
「では公方様とお会い為されて」
「そうする。だが詳しい話は後じゃ」
 今はしないというのだ。それは。
「後でじっくりとお話したい」
「三好攻めの後ですか」
「お祝いの場でお話したいのじゃがな」
 それでだというのだ。
「公方様にはな」
「そうはいかぬのではないのですか?」 
 小寺は怪訝な顔で信長に言った。
「昨日までどうなるかわからぬ戦をしておられたのですから」
「それはそうじゃがな」
「ではやはりここは」
「いかし今は迅速にいかねばならん」
 そのうえで三好に攻め込むというのだ。
「公方様にはそのこともお話しておく」
「お話を整えられる自信はおありでしょうか」
「無論じゃ。なければ言わぬ」
 これが信長の返答だった。
「そういうことじゃ」
「そうですか。それでは」
「皆陣を整え和泉に向かう用意をせよ」
 信長は諸将達に告げた。
「わしはその間に公方様の御前に参上する」
「畏まりました。それでは」
「我等はその間に」
「六郎、御主じゃ」
 信長が今回の共に選んだのは通具だった。
「共に来い」
「それでは」
 通具も頷いてだ。そうしてだった。
 信長はすぐに義昭のいる本国寺に入った。義昭は彼が己に一礼するのを見てからかん高い声でこう言ってきたのだった。
「御主には言っておくことがあるぞ。だから御主は都にじゃ」
「では今より三好を攻めます」
「何っ、今何と言った」
「この度のことは三好がいたからのこと」
 義昭に多くを言わせずだ。こう言う信長だった。
「すぐに三好を討ちに向かいます」
「三好というと四国か」
「はい、讃岐と阿波です」
 そこだというのだ。
「そして淡路も」
「攻めるというのか」
「今すぐに向かって宜しいでしょうか」
「うむ。余にしてもじゃ」
 信長の返しにそのまま飲まれてだ。義昭は勢いを削がれた顔になってそのうえで信長に言うのだった。
「三好がいなくなるならな」
「それで宜しいでしょうか」
「よい。それではな」
「さすれば。それでなのですが」
 信長は勢いが削がれている義昭にさらに言った。
「幕臣の中でこの度の出陣において」
「今からか」
「同行したいという者がおれば」
「よい、連れて行け」
 義昭は今は鷹揚な仕草を見せて述べた。
「行きたいという者はな」
「さすれば」
「では三好のことは任せた」
 釈然としない感じだがそれでも頷く義昭だった。
「必ずや平定せよ」
「そうさせて頂きます」
 こう話してだ。信長はすぐに義昭の前を後にした。それから彼は即座に自軍に戻り出陣を命じた。そこには明智達もいた。
 その信長の青の軍勢を見送りながらだ。義昭は釈然としない顔で呟いた。
「何じゃ、説教しようと思っておったのに」
「説教、織田殿をですか」
「あの方をですか」
「そうじゃ。若しあの者が都を固めていればじゃ」
 それでだとだ。彼は眉を顰めさせて言うのだった。
「この度のことはなかったぞ」
「あの、ですが」
「今幕府は織田殿がおられなければどうにもなりませぬが」
「その織田殿へご説教とは」
「それは」
「何か問題があるのか」
 義昭だけがわかっていなかった。このことについて。 
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