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戦国異伝

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第百話 浅井の活躍その十


「この時をな」
「三好をここで倒せばかなりのものですね」
「今現在の最大の敵がいなくなる」 
 これが何といっても大きかった。
「それに四国にも領土を広げ瀬戸内の東も手中に収められる」
「交易でも期待できますか」
「あと海の幸も育てさせたり獲らせよう」
 漁師達のこともだ。信長は見ていた。
「そして商いをさせればさらに潤うぞ」
「今度は海ですか」
「海もまた田畑じゃ」
 そこには富があるというのだ。
「魚も獲れる。そして塩も安全に作ることもできるぞ」
「播磨でもですね」
「よいことばかりじゃ。それではじゃ」
「はい、すぐに和泉から四国に向かいましょう」
 海を渡ってだ。そうすると話してだった。
 信長は三好の軍勢を追う形で一気に和泉から讃岐に向かうことにした。これには十万の大軍と諸将を率いて信長自ら向かうことになった。
 そのことを決めた信長にだ・。長政は別れの言葉を述べた。
「では今は」
「うむ、この度はまことにご苦労だった」
「これからも何かあればすぐに駆けつけますので」
「頼むぞ。御主と竹千代がおればな」
 家康もだった。信長にとって頼りになる者だった。
 そしてその長政と家康がだ。信長にとってはだった。
「わしも安泰じゃ」
「有り難きお言葉」
「そなたに市を嫁にやってよかったわ」
 こうも言う信長だった。
「それでじゃ。もうそろそろじゃな」
「腹も大きくなっております」
「最初は男かのう。それとも」
「どうでしょうか。ただ」
「ただ。何じゃ」
「最初は男の様な気がします」
 何となくという感じでだ。長政は信長にこんなことを述べた。
「そしてその次にでしょうか」
「おなごとなるか」
「そんな気がしますが」
「おのこだと御主に似るじゃろうな」
 信長は長政のその顔を見て述べた。
「そしておなごなら市に似るのう」
「市にですか」
「顔立ちのよいおなごになるぞ。ただ市は控えめなところがあるからな」
 この辺り信長と違う。活発な兄とは正反対に市はそうした性格なのだ。 
 だがその市についてだ。信長はこうも言った。
「しかしじゃ」
「しかしですか」
「気付いておろう。市はあれで賢いぞ」
「そうですな。かなり鋭いですな」
「実は兄弟姉妹の中でわしに最も似ておる」
 信長には多くの弟と妹達がいる。その中でもだというのだ。
「勘もいいぞ。下手に隠しごとなぞすることのないようにな」
「それがしはその様なことは」
 生真面目で清廉な長政は実際に生真面目な顔で信長に返した。
「致しませぬので」
「わかっておるわ。御主程二心のない者はおらん」
 信長もそれはわかっていた。長政だけの生真面目な者はいなかった。忠義の者が多い織田家においてもだ。
 それで信長は浅井家については安心しきっていた。浅井家にいるのは彼だけだと思っていたのだ。それが過ちでもあったのだが。
 そのうえでだ。こうも言うのだった。
「その心が一番よい」
「父上に常に言われておりました」
「久政殿にか」
「そうです。常に二心なぞ抱くなと言われました」
「ふむ。久政殿はよい教育をされたな」
 凡庸はまだいい方で暗愚とさえ言われることの多い久政だがだ。信長は教育についてはよいものを見た。 
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