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戦国異伝

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第九十九話 都での戦いその三


 だからだとだ。細川は言うのである。
「ですからあまり」
「あてにはならぬか」
「はい」
 そうだというのである。
「都は我等だけで守る覚悟が必要です」
「織田の兵がおるのにか」
「はい、当然信行殿も危急の時には駆けつけて下さいますが」
「数はおるな」
「一万は」
 それだけの兵をだ。信長は信行に預け都の守りにしているのだ。しかしその一万の兵はどうかというのだ。
「しかし。信行殿は」
「兵を動かすのは不得手か」
「ですので」
「しかし一万もおるのであろう」
「そのことは確かです」
「では何があっても大丈夫ではないか」
「戦は確かに数です」
 細川は言った。戦にとって大事なものを。
「しかし数だけではです」
「勝てぬというか」
「そうです。様々なことが重なって戦というものは行われますから」
 それ故にだというのだ。
「数だけでは勝てるとは限りませぬ」
「何じゃ、一万もおってもそう言うか」
「若しも一万、そして幕府の兵以上の数が来ればどうされますか」
「その時は守るしかあるまい」
 義昭は素っ気無く答えた。
「この本国寺にでも立て篭もってな」
「そうです。その時はです」
「しかしそんなことが起こる筈がない」
 またこう言う義昭だった。
「落ち着いていけばな」
「何ということはないと」
「そうじゃ。何もないわ」
 また言うのだった。
「安心せよ。都はもう脅かされぬわ」
「では幕府にも恐れるものはないと」
「ないわ」
 はっきりとだ。義昭は答えた。やはり今も馳走を食いながら。
「そんなものはないわ」
「ですか」
「うむ、全くない」
 こう言うのだった。あくまで。
「何もな。天下は再び治まり」
「幕府は安泰だと」
「そうじゃ。信長がそうしてくれるわ」
 彼の臣下であるだ。信長がそうするというのだ。
「何も問題はないわ」
「では今は」
「さあ酒も飲むぞ」
 顔は既に赤くなっているがだ。さらにだというのだ。
 赤い杯の中の酒を美味そうに飲みながらだ。義昭は言う。
「どんどん注げ。飲んでいくぞ」
「畏まりました」
 細川は今はこう言うだけだった。義昭はただひたすら飲んでいく。そうして山海の珍味に能、狂言を楽しみながら元旦を過ごしたのである。
 次の日義昭は遅くまで飲んでいた。しかしだ。
 不意にだ。彼は大声で起こされたのだった。
「公方様、大変です!」
「兵が来ております!」
「何じゃ一体」 
 幕臣達の駆け込んできた言葉にだ。義昭はその手で額を押さえながら応えた。
「余は飲み過ぎた。茶を持って参れ」
「茶どころではありません」
「何じゃ、茶はないのか」
「茶はあります」
 流石に何の力もなくともだ。将軍ならば茶位は飲める。それで義昭も茶を所望したのである。だがそれでもだった。
 幕臣達は焦っている顔でだ。こう言ったのである。
「それどころではありません」
「騒々しいのう、正月だというのに」
「敵は正月を待ちませぬ」
「?敵じゃと」
「はい、三好が来ました」
「何じゃ、三好か」
 三好と聞いてもだ。義昭は全く動じない。それでだ。 
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