戦国異伝
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第九十八話 満足の裏でその十一
「何でも好きなものを言えばよい」
「何でもですか」
「そうじゃ。褒美は思いのままじゃ」
まさにだ。そうだというのだ。
「御主が好きなものを望める」
「ではわしも大名に」
「ははは、何十万石でも言うがよい」
そこまで出せるというのだ。
「そして天下の茶器も名馬もじゃ」
「わしのものになりますか」
「信長の首を取ればな」
「では是非」
この足軽が言うとだ。他にもだった。
他の足軽達も口々に威勢よくこう言ってきたのである。
「それではですな」
「わしも狙いますぞ」
「おお、わしもじゃ」
「わしを忘れるな」
こう言ってきたのである。
「織田信長の首を取ろうぞ」
「そしてこの戦に勝つのじゃ」
「さすれば褒美は思いのままじゃ」
「うむ、そうなるぞ」
彼等の士気は嫌が応にもあがる。それを見てだ。
三人衆も確かな笑みになりだ。こう言い合うのだった。
「いけるやもな」
「そうじゃな。士気が上がったぞ」
「兵は少ない。しかしじゃ」
「淀川から一気に都を攻めればな」
「必ず勝てるぞ」
「負ける筈がない」
三人衆は三人衆で言う。そしてだった。
その彼等にもだ。龍興はこう言うのだった。
「確かに我等の兵は少ないです」
「しかしか」
「それでもじゃな」
「はい、戦次第で勝てます」
十五万の兵を擁する織田家にもだというのだ。
「必ず。そうなりますので」
「では、じゃな」
「我等はこのまま進めばよいか」
「都まで」
こう話していく。そしてだった。
三人衆はあらためて龍興にこう言うのだった。
「しかし龍興殿、御主はやるのう」
「こう言っては何じゃがかつては酒色に浸っていたというが」
「今では全く違うのう」
「変わり申した」
龍興は難しい顔になって三人に返す。
「それがしもまた」
「変わったと」
「そう言われるのか」
「はい」
まさにだ。そうだというのだ。
「あの男に美濃を追い出されてから」
「ううむ。それがか」
「貴殿を変えたのか」
「あのことが」
「美濃を取り返す前に」
龍興は憎しみに燃える目で述べる。
「あの男の首を取り申す」
「では頼むぞ、その意気」
「見せてもらおう」
「はい、さすれば」
こう応えてだった。龍興は自ら先陣に向かうのだった。三好の軍勢は都に向かう。そのうえで織田家との戦に向かうのだった。
第九十八話 完
2012・7・5
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