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戦国異伝

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第九十七話 都の邸宅その十


「必ずな」
「しかし幕臣ですが」
「それでもですか」
「幕臣じゃが織田家から禄を出しているではないか」
「ではそこからですか」
「家臣として扱われますか」
「そのつもりじゃ」
 信長は極めて柔軟に話した。
「禄を出しているのならじゃ」
「それで織田家の兵を預ける」
「国もですか」
「そうじゃ。しかし兵や国を預けるのはまだ先じゃな」
「それは権六殿達もですな」
 信包はすぐにこう言ってきた。
「そうですな」
「うむ、もう少し領地が広くなってからじゃ」
 それからだというのだ。
「今ではない」
「左様ですか」
「今ではありませんか」
「そうじゃ。まあ焦ることはない」
「わかりました。それでは」
「その様に」
 弟達も信長のその言葉に頷く。その中でだ。
 ふとだ。信興がこう言ったのである。
「ただ。その中に平手の爺と新五郎殿が入っていませんが」
「二人がおらぬ理由か」
「そうです。特に爺は織田家の筆頭家老ですが」
 言わずと知れた織田家第一の臣だ。その識見と政の巧みさは比類がない。誰からも一目置かれ信長もその言葉には中々逆らえない者だ。
 だが平手はそこには入らない。それは何故かというのだ。
「どうしてでしょうか」
「そのことじゃがな」
「はい、何故でしょうか」
「爺も新五郎も政は得意じゃ戦についてはその者達程ではない」
 柴田や滝川達程ではないというのだ。
「だからじゃ。二人には国を預けることはあってもじゃ」
「多くの兵は預けぬ」
「兵を率いることが不得手であるが故に」
「そうじゃ。勘十郎はそうはいってもな」
 やはり戦が不得手な信行だが彼の場合はどうかというと。
「あの者は時としてわしの名代も務めるからのう」
「時として兵を率いてもらうのですか」
「勘十郎兄上に関しては」
「うむ、そう考えておる」
 信長は弟達にこう話した。
「あ奴はまた別じゃ。しかしじゃ」
「その兵を率いる時はですか」
「兵を率いておられても」
「三郎五郎を付けるかじゃ」
 信長の弟の一人だ。兵を率いることはわりかし得意だ。
「若しくは動かぬ様に命じる。守れとな」
「攻めることは許されない」
「そうされますか」
「まあ勘十郎は慎重じゃ。そうしたことはわかって動くがな」
「しかし攻めることはできぬ」
「勘十郎兄上だけだと」
「うむ。あ奴にはそうさせる」
 兵は率いていてもあくまで名代に過ぎないというのだ。彼の場合は。
「それで爺はこのまま留守役に家のまとめ役、新五郎は調略と政じゃ」
「これまで通りですか」
「そうしたことを担ってもらいますか」
「うむ、そうする」
 こう言うのだった。
「兵を率いるだけが仕事ではないからのう」
「確かに。むしろその後ですからな」
「政が肝心です」
「それは国を手に入れてからよくわかりました」
「いや、戦に勝つだけではないのですな」
「そういうことじゃ。あらためて言うがわしは一度用いた者は決して見捨てぬ」
 それだけ己の人を見る目に自信があるのだ。それだけの者を見抜いて用いているとだ。信長が自信を持っていることの一つでもある。
「だからこそじゃ」
「働いてもらいますか」
「これからも」
「そういうことじゃ。しかし御主達も」
 ふとだった。信長は話題を変えてきた。 
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