戦国異伝
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第九話 浮野の戦いその十
「顔をあげよ」
「わかりました」
「それでは」
信長の言葉を受けて二人は顔をあげた。そのうえで話をするのであった。
「山内一豊に堀尾吉晴だったな」
「その通りです」
「それが我が名です」
二人は信長に呼ばれた名にも頷いてみせた。
「それでお話とは」
「何でしょうか」
「何故敗れたかよ」
信長はこのことを二人に言ってみせた。
「御主等がだ。それを知りたくはないか」
「勝敗は戦の常です」
山内は信長のその言葉に臆することなく返した。
「されどです」
「次は遅れを取らぬ為に」
堀尾も言う。
「知りたくあるのは確かです」
「まずは御主等を伊勢守から離した」
信長が言うのはここからだった。
「美濃の斉藤が動いたと偽の話を流してな」
「ではあれは」
「偽りの」
「そうじゃ。そのうえで御主等を犬山への備えとさせ」
そうしてだった。さらに話すのであった。
「伊勢守だけを我等に向かわせてだ」
「そこからは聞いております」
「十手の伏兵ですね」
「十面埋伏の計よ」
ここで信長の顔が楽しげに笑った。
「この計は知っておるか」
「確か三国演義にある」
「あれですか」
「そうだ、あれを仕掛けたのだ」
まさにそれだというのだ。信長は楽しげな顔のままでさらに話すのであった。
「敵をあえて周りを見させぬようにしたならばあれだけ強い計はない」
「それによって勝たれるとは」
「そして我等が敗れるとは」
「全てはこの者の策よ」
ここまで話してから生駒を見て述べてみせた。
「この度の戦いはのう」
「確か生駒殿でしたな」
「貴殿がでしたか」
「はい」
生駒は穏やかな顔で山内と堀尾に対して答えた。
「左様です」
「ううむ、弾正殿にはそこまでの軍師がいたとは」
「清洲でもこの度も戦ぶりは見事でしたが」
「それでじゃ」
信長の顔がふと変わった。
「そなた等もじゃ」
「我等も」
「といいますと」
「わしのところに来るのだ」
実に率直な誘いであった。
「わしは尾張を統一する」
「それは間近ですな」
「この岩倉を手に入れたことにより」
信長の誘いにまずはこう冷めた口調で返す彼等だった。
「しかしです」
「それでは我等は」
「尾張だけではない」
だが、だった。信長はここでこうも言ってみせたのである。
「わしは尾張一国だけを望まぬ」
「では。まさかと思いますが」
「美濃や伊勢もでしょうか」
「まだ上よ」
それだけではないというのである。
「それだけではないわ」
「では天下を」
「天下を望まれるというのですか」
「そうじゃ。そして天下を手に入れる為にはじゃ」
あらためて二人を見て。そしてだった。
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