戦国異伝
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第九十六話 鬼門と裏鬼門その十一
「死霊にしても同じです」
「では人は生きていても怨霊となる」
「その心次第で」
「左様です」
まさにそうだとだ。雪斎は静かに、だが確かに述べた。
「生霊というものがありますな」
「あの生者から魂が出るという」
「あれか」
「そうです。霊は何も死んでいるとは限らないのです」
生きている者もまた霊となるのだ。即ちだった。
「例え人の姿をしていても。その心が人でなければ」
「あやかしのものならあやかしとなる」
「そして鬼にも」
「そうなるのです。ただその津々木という者は鬼やあやかしの心ではなかったですな」
「その通りじゃ」
信長と共に彼を間近に見て斬ろうとした川尻がその通りだと頷く。
「心も紛れもなく人じゃった。じゃがそれは」
「魔人ですな」
雪斎はここでこの言葉を出した。
「ならば魔人になりまする」
「雪斎殿は先程魔王と述べられたが」
竹中は彼の言葉のそこを見て述べる。
「では魔人はその魔王の下にいる者達でしょうか」
「そうですな。そう考えられてよいかと」
「魔王の類はそれがしも知っております」
ただどういった者達かは彼も言わなかった。やはりそれはやんごとない方々のことにも関わるからだ。それ故のことであるのだ。
「世を乱す魔界の者達ですな」
「そうなるかと」
「ですか。魔界でございますか」
竹中は呟く。他の者達もだ。だが一人もだった。
そこにいる松永に一切声をかけようとしない。そして気付いてもいない。彼はその場にいるが過去を見て誰もが声をかけない。そのうえ見ようともしなかった。
だがその中でだ。彼は確かにいた。その彼にである。
羽柴が何となくだがそっとこう囁いたのである。
「魔界とはまたおどろおどろしいですが」
「猿殿は御存知ないか」
「それがし学がありませんので」
それでよく知らないとだ。羽柴は愛嬌のある笑顔で松永に答える。
「そうしたことはどうも」
「左様でございますか。しかし」
「しかしとは」
「羽柴殿だけですな」
ふと笑ってだ。松永は羽柴に述べたのだった。
「織田家でそれがしに声を掛けて下さるのは」
「それに殿だけでございますな」
「声を掛けても宜しいのですかな」
聞きようによっては羽柴を気遣っている様にも聞こえる言葉だった。
「そうしても」
「それがしが声を掛けて何かよくないことがありますか」
「羽柴殿がよく思われないのでは」
「いやいや、そんなことはありませぬ」
羽柴はここでも愛嬌のある笑顔になった。そのうえで松永に言うのである。
「それがし。松永殿の学には敬服しておりまする」
「左様でござるか」
「そうです。それにそれがしはこれでもです」
どうかというのだ。羽柴自身がだ。
「人を見る目には自信があります」
「その目で御覧になられたそれがしは」
「決して悪い方ではありませぬ」
羽柴が見たところそうだというのだ。
「そう思いますが」
「有り難いですな。そう見て頂けるとなると」
「有り難いですか」
「それがしをそう見て頂いたのは羽柴殿がはじめてでしょうか」
「左様でございますか」
「やれ蠍だ。やれ」
ここで言う言葉は。
「闇だと」
「闇とは」
「むっ」
言ってすぐにだった。松永は気付いたのはこう言い繕ったのだった。
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