戦国異伝
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第九十六話 鬼門と裏鬼門その九
「大和には興福寺がありますし」
「大和の興福寺はよいとしてじゃ」
原田も言う。
「やはり問題は本願寺じゃな」
「まだ紀伊には入っていないが」
織田家はまだ紀伊入りはしていない。信長は本願寺の力があまりにも強いその国には今は入らなかったのだ。信長も本願寺との衝突は避けているのだ。
そしてその紀伊には本願寺以外にもだ。この寺があった。その寺は大津が言った。
「高野山じゃな」
「うむ、金剛峰寺じゃな」
「あの寺じゃな」
他の者達も言う。その高野山のことを。
「比叡山と並ぶ都を守護する寺じゃな」
「あの寺じゃな」
「あの寺もどうもな」
「近頃聖達が乱れておるな」
大津は鋭い、嫌悪を入れた目で述べた。
「どうにもな」
「そうですな。聖達はそもそも高野山の目であり口であり耳でありました」
ここでも雪斎が話す。やはり寺のことにはかなり詳しい。
「近頃。乱世のせいかどうにも」
「質の悪い者が目立ちますな」
「はい」
その通りだとだ。雪斎は大津に答えた。
「弘法大師のみ教えも近頃は」
「嘆かわしいことじゃな」
「そもそもです」
ここで雪斎は少し妙なこと、普通の者にはそう思える話をはじめた。
「高野山には妙な話があります」
「妙なとは?」
「それは一体」
「あやかしもおるとか」
この話をするのだった。
「そうした話もあります」
「あの高野山にあやかし?」
「まさか」
「いえ、確かにあるのです」
雪斎は確かな声で述べる。
「そうした話が」
「それは幾ら何でも」
「うむ。弘法大師の開かれた山じゃ」
「まさかその様なことはあるまい」
「あの山に限って」
誰もがその話にはいぶかしむ。だが、だった。
小寺がだ。雪斎の話を聞いてこう述べたのであった。
「いや、その話もあるやも知れませぬぞ」
「高野山にあやかしがおるとな」
「そうだと」
「そうです。古来より僧があやかしやそうしたものになった話もあります」
この話からだった。小寺が言うのは。
「そして聖達、山の目であり耳であり口であるあの者達が腐るとなると」
「山にあやかしが入ってもおかしくはない」
「そう言うのか、官兵衛は」
「左様です」
それでだというのだ。
「ですからそうしたことがあってもです」
「あやかしというものは外から出入りすることもあります」
所謂鬼門、裏鬼門からだ。都、国の心臓であるそこにそうした存在が入らない様に鬼門の北東には比叡山があり裏鬼門の南西には高野山があるのだ。
雪斎もこのことは知っている。その彼の言葉だ。
「しかし。心が邪になればそこからです」
「あやかしが生まれる」
「そうなるというのですか」
「左様です。あやかしは中からも生ずるものです」
外から出入りするだけでなくだ。中からもだというのだ。
「例えそれが高野山であっても」
「それではかなりまずいのではないか」
柴田は雪斎の話をここまで聞いたうえでこれまで以上に剣呑な顔になって述べた。
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