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戦国異伝

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第九十六話 鬼門と裏鬼門その四


「加賀だけではありませんからな」
「紀伊も実質的にはです」
「そして多くの門徒を抱えておりますな」
「石山の寺はそれ自体が巨大な城です」
「しかも鉄砲に兵糧も多い」
「あの寺はまた特別である故にです」
 とにかくだ。本願寺は別格だった。
「織田家ともです」
「戦をできますか」
「それも互角に」
 今のだ。十五万の兵を持つ織田家ともだというのだ。
「できましょう」
「ですか。では本願寺が動けば」
「その時は恐ろしいことになります」
「織田家と本願寺の全面的な衝突ですか」
「左様です。その頂点にはです」
 明智はただ双方の勢力の衝突だけを見てはいなかった。それだけではないとだ。彼は既に看破していたのだ。
「信長殿と顕如殿がおられます」
「本願寺のあの御仁ですか」
「信長殿が傑物なら顕如殿もまた、です」
 傑物というのだ。信長に対抗できるまでのだ。だが細川は明智のその言葉を聞いて茶を飲みながら考える顔になりそれからだった。
 茶碗を置きだ。こう言った。
「しかし武田や上杉、毛利の方が」
「大きいと申されますな」
「はい、このお三方は」
 武田信玄、上杉謙信、毛利元就である。戦国で覇を唱える者達だ。
「そこに北条氏康殿を加えてもいいでしょう」
「その方々は、ですな」
「やはり相当な方々ですが」
「確かにその通りです」
 信玄達の凄さについては明智もよく知っていた。そして否定することもしない。
「どの方も天下を治められる方です」
「そうですな。それだけのものがありますな」
「はい」
「しかしなのですか」
「そうです。織田殿との違いがあります」
 その違いが何かもだ。明智は細川に言えた。それは何かというと。
「都に近かったことです」
「そのことですか」
「はい、織田家は尾張にあり都に近かったです」
「地の利ですか」
「天の時、地の利、人の和」
 明智はその三つも挙げた。
「天下を治めるにはこの三つが欠かせません」
「織田殿には地の利もありましたか」
「そうです。どの方も人の和はあります」
 武田も上杉もだ。確かにそれはあった。
 優れた家臣達を上手くまとめている。それ故に話はあると言えた。
 だが、だった。地の利はというとだった。
「尾張は土地もよく見事な町もあります」
「豊かでありますか」
「しかも伊勢や美濃も手に入れられました」
 尾張の隣国であるこの二国もだというのだ。
「そのうえ近畿の殆ども」
「それが地の利ですか」
「織田殿はまさに地の利に恵まれました。それに」
「それにでございますか」
「天の時もありました」
 これもあるというのだ。信長には。
「まさに都に上れという」
「時ですか」
「そうです。どの家にもどの方にもありませんでした」
「だからこそ織田殿は今に至りますか」
「そうなります。そして顕如殿ですが」 
 明智は彼のことも細川に話した。
「あの方には天の時は無縁ですが」
「地の利と人の和がありますな」
「はい、石山は都に近く極めて攻めにくい場所です」 
 本願寺自体が堅固な城だ。そのことが本願寺の地の利だった。
「しかも多くの門徒が一つになっております」
「それが人の和ですな」
「はい、そうです」
 こう話すのだった。細川に対して。 
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