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戦国異伝

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第九十六話 鬼門と裏鬼門その一


                   第九十六話  鬼門と裏鬼門
 安藤達四人は早速だった。信長に対して明智達にこれまで以上の織田家から禄を出してはどうかと申し出た。彼等は城の主の間で信長と会った。
 そしてそのうえで信長に話した。するとだった。
 信長は考える顔になりだ。こう四人に答えた。
「それはわしも考えておった」
「十兵衛や細川殿にですか」
「その様にですな」
「わしは優れた者を好む」 
 そうした者は次々と召抱える、それが信長だった。
「だからこそじゃ。あの者達はよいと思う」
「ではここは」
「十兵衛達に禄を」
「そうしたいがここで問題がある」
 信長はここでは眉を顰めさせた。それで言うことは。
「その公方様のことじゃが」
「公方様ですか」
「あの方ですか」
「そうじゃ。幕臣達にわしがこれまで以上に禄を与える」
 まさにそのことでどうなるかというのだ。
「それで公方様がどう思われるかじゃ」
「不快に思われるやも知れぬ」
「そう仰るのですか」
「うむ。公方様と揉めることはわしも避ける」
 避けたいという願望ですらなかった。それはもう決まっていることだった。
「決してじゃ。それはな」
「ではここはどうされますか」
「一体」
「これまでの禄なら公方様に事前にお話をせずともよかった」
 織田家の禄であっても少しばかりならというのだ。
 だが今まで以上になるとどうなのか。信長が言うのはこのことだった。
「だからじゃ。まずは公方様に文を送ろう」
「そうしてですか」
「事前に公方様のお許しを得てからですか」
「そうされてですか」
「うむ。禄は大事じゃ」
 何しろこれで生きるからだ。大事でない筈がない。
「まして幕臣ともなるとな」
「しかし幕府にはその禄を与える余裕がありませぬ」
「幕臣はかなり貧しいとか」
「それで織田家から禄を出せばです」
「かなりの者が織田家に加わりますが」
「それでもじゃ。わしは幕府、ひいては公方様の敵ではない」
 むしろ後見役だ。神輿を担ぐ者なのだ。
 その担ぐ者が神輿と揉めては何にもならない、信長が言うのはこのことだった。
 このことを言ってだ。そしてだった。
「今の織田家なら禄もかなり出せるがじゃ」
「それでもですか」
「まずは公方様のお許しを得てからですか」
「そのうえで禄を出す」
 こう美濃四人衆に言った。
「そうするとしよう」
「お許しが出ればいいですが」
「そうなれば」
「そうじゃな。しかしこのことはじゃ」
 どうなるかとだ。信長は考える顔に先を見る目を見せて述べた。
「まずお許し頂ける」
「そうなりますか」
「公方様は許して頂けますか」
「禄のことも」
「何しろ幕府は余裕なぞない」
 禄を出すどころではないのだ。まことにだ。
「山城の国にしろ実質なくしておるからのう」
「山城も織田家が掌握しました」
「それでは」
「しかし幕臣達には禄を出さねばならない」
「そうした矛盾がありますな」
「では織田家が代わりに出す」
 そういう形にすればだ。どうなるかというのだ。 
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