戦国異伝
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第九十五話 大と小その六
「思う存分な。食うがいい」
「いや、年貢も軽くして頂いてますし」
「それで腹一杯食ってもいいとは」
「織田様は随分お優しいですな」
「気前のいい殿様ですな」
「殿はこうしたことには大盤振る舞いじゃ」
賦役に使う百姓達の年貢は軽くし褒美もやる。それに加えてなのだ。
こうしてよい飯をたらふく食わせてくれる。信長はそうするとだ。万見が話す。
「そうされるから安心せよ」
「そうしてこうして築いた堤なり水の道なりがですか」
「わし等の生活をよりよくするのですな」
「田畑をよりよくして」
「そうだというのですな」
「そうじゃ。その通りじゃ」
まさにそうだとだ。今度は矢部が答える。
「だから励め。よい田畑を作る為にな」
「はい、そうさせてもらいます」
「喜んで」
「あと殿は怠けるのはお嫌いじゃが」
確かに信長はさぼることや怠けることは嫌いだ。しかしなのだ。
「それと共に誰かがこうしたことで傷を負うことも嫌われる」
「そうなのですか」
「殿様はそうした方ですか」
「そうじゃ。戦で傷を負うことは仕方ないとしてじゃ」
戦はそうしたものだった。だが、だった。
「灌漑だのそうしたことで怪我をしても下らぬじゃろ」
「まあそうですな。狩りとかでもそれは怖いです」
「とてもです」
「そういうことじゃ。働くことは大事じゃ」
これは必須としてだった。
「しかし怪我はするな。よいな」
「へえ、では気をつけます」
「わし等もそうなればかかあや倅が困りますし」
「怪我はしない様にですな」
「しっかりとしますか」
「無理をすることも気を抜くことも駄目じゃ」
どちらもだった。それは。
「では今はじゃ」
「無理をせずに気を抜かずに」
「働かせてもらいます」
「しかと」
「さて。これからも励んでもらうぞ」
万見が述べる。彼等は今は休息を取り握り飯を食っている。織田家の政は借り出される者達への心配りも行き届いたものだった。
だが信長が岐阜に入りそのうえで政に専念している時にだ。四国の讃岐では。
三好三人衆が顔を見合わせてだ。こんな話をしていた。
「このままやられてはならんな」
「うむ、結局我等はやられっぱなしじゃった」
「それで今こうして四国に追い出された」
「全く。してやられた」
「どうにもこうにも」
「どんなものじゃ」
まずは愚痴からだった。彼等は今いる城の中で話していた。
顔を見合わせているがその顔は暗い。はっきりしないものだった。その顔での密室での話しあいだった。
その中でだ。長逸が他の二人にこう言った。
「しかしこのまま黙っておるか」
「馬鹿を言え、それが武門の者のすることか」
「このままでは三好家の名折れぞ」
すぐにだ、政康と友通は長逸に反論した。
「このままでは三好家は舐められるぞ」
「そうでなくとも一連の負け戦で天下の笑い者だというのに」
実際に信長に四国まで追い出された三好家の名は地に落ちていた。最早彼等は四国の二国と淡路だけだった。それだけしか国を持っていなかった。
そのうえ実際に天下の笑いものになっている。このことに言うのだった。
「是非共じゃ。織田の鼻を明かそうぞ」
「絶対にな」
「うむ、わしもそう思う」
会心の顔でだ。長逸も二人に述べる。
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