とある星の力を使いし者
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第17話
上条とステイルは「三沢塾」の前に来ていた。
事情はステイルに教えて貰いファーストフード店で相席に座ってきた巫女服の女性、姫神秋沙が今回の事件の中心人物だったと知った時は上条は驚きを隠せなかった。
此処へ来る前にインデックスは猫を拾い飼うと言い出すわ、何やらあったがもうすぐ敵の本拠地なので頭を切り替える。
「三沢塾」を占拠してまで吸血殺しという能力を持つ姫神を捕えている、首謀者の名前はアウレオルス=イザードという名前だ。
知名度で言えば錬金術師の中では一、二を争う錬金術師らしいのだがステイル曰く、力は衰えているらしい。
そもそも魔術の世界で錬金術師などいう職業は存在しない。
占星、錬金、召喚など一通り勉強してその中で自分に一番合った専門を見つけるのが基本だ。
そもそも錬金術師も完成された職業ではない。
錬金術師は何かを創るというイメージが大きいが実際はそうでない。
錬金術師は「公式」や「定理」を調べてその先を目指している。
それは「世界の全てを頭の中でシュミレートする事」。
膨大な法則を頭の中で少しでも間違っていればそれだけで頭の中の世界は歪んでしまうが、それが歪む事無く法則を完璧にすれば頭の中に思い描いたモノを現実の世界に引っ張り出す事が出来る。
上条はそれを聞いて絶対に勝てないぞ、とステイルに言ったがステイルは心配はない、と言った。
理由は世界の全てを星の一つから砂の一粒まで語ろうとすればどれだけの時間がかかるか分からない。
錬金術の学問が完成されていない理由はここにあるのだ。
これを完成させるには人間の寿命では全く足りないのだ。
呪文を短くしたり、親が子に少しずつ詠唱させるいった方法もあるがそれでは呪文が歪んでしまう。
だからこそ、寿命を持たない吸血鬼は魔術師にとって立派な脅威であり、アウレオルスはその為に吸血鬼を捕まえようとしているのかもしれないと上条は考える。
なぜ、ステイルがここまで自信のある説明をしているのかというとアウレオルスとは宗派が違うが顔見知りらしい。
そして、ステイルと上条は三沢塾を見上げる。
「三沢塾」は一二階建てのビルは四棟もあり、そのビルが十字路を中心に据えられ、漢字の「田」の字を作るように配置されていた。
「とりあえず最初の目的は南東の五階にある食堂の脇だね、そこに隠し部屋があるらしい。」
「隠し部屋?」
「おそらく鏡視や鏡覚でも使って、中の人間には気づかせない作りになっていると思うけどね。
あのビル、子供が積み木を並べたみたいに隙間だらけなのさ。」
ステイルはビルを眺めながらのんびりとした口調で話す。
上条はふぅん、と何となく呟くと隣のステイルが忌々しそうに呟いた。
「怪しくは見えないね。」
「あん?」
「専門家の僕が見ても怪しい所は見当たらない。
怪しい所なんて何も見当たらないのさ、専門家の僕がキチンと見ているのにね。」
上条はステイルは怪しい所はないと言っているが危険な所はないとは言っていない。
そんな危険な所に足を踏み入れて大丈夫なのか?、と心配する。
「大丈夫なはずがない。」
そんな上条の心情を分かっているかのようにステイルはあっさりと答えた。
「けれど、入るしかないだろう?
僕達の目的は救助であって殺しじゃない。
いやビルごと炎に包んで良いって言うなら僕だって大助かりだけどね。」
間違いなく、半分以上本気でステイルは言っていた。
「入るしかないってちょっと待て。
まさか正面からお邪魔すんのか?
もうちょっと策とはねーのか?
気づかれないように侵入する方法とか安全に敵を倒す方法とか!!」
「何だ、それなら君は何か得策に持ち合わせがあるのかい?」
「テメェは本当にこのまま突っ込む気か!?
ようはテロリストが立てこもっているビルに正面から突撃するようなもんだろ!!」
「ふむ、まぁ身体にナイフで「神隠し」でも刻んでやれば気配を断つ事ぐらいはできるけどね。」
「じゃあやれよ!!痛いのはヤダけど!!」
「最後まで聞くんだ。
たとえ気配を断とうが透明人間になるが「ステイル=マグヌスが魔術を使った」魔力だけはごまかしようはない。」
それを聞いて上条はは?、と訳が分かっていないようだ。
それを見たステイルはため息を吐いてめんどくさそうに説明する。
「あのビルの中にはアウレオルスの魔力が充満している。
赤い絵の具一色で塗られた絵画と例えよう。
その赤一色の絵画に青い色が塗られれば誰だって気づくだろう?」
「良く分からんが、つまりお前は歩く発信器デスか?」
「そんなもんだが、君よりマシだと思うけどね。」
何でだよ、上条は問いかけようとしたがステイルが先に答える。
「君の幻想殺しは赤絵の具をごっそり拭き取っていく魔法の消しゴムだよ?
自分の絵画がどんどん虫食いされていけば誰だって異常に気付くだろ?
僕の方は魔術さえ使わなければ異常は感知されないけど、君の場合は異常が常時ダダ洩れじゃないか。」
「じゃあ何か?
俺達は二人して腰から発信器ぶら下げている状態で、何の策も持たずにテロリスト満載のビルん中に正面からドアベル鳴らしてお邪魔するってのか?」
「そのために君がいる。
できればあの麻生恭介も一緒に同行してほしかったが、まぁ居ない人間の事を言っても仕方がない。
君は死にたくなければ死ぬ気で右手を盾にしろ。」
死にたくなければ死ぬ気で右手を盾にしろ、と何とも矛盾した発言をする。
麻生も一緒に姫神を救出する事になっているが先ほどから携帯に連絡しても全く反応がない。
麻生も上条と同じインデックスの足枷となっているので参加せざるを得ない状況なので来るとは思う、とステイルは言っていた。
正直、上条は麻生がどれだけ強いかは分からない。
記憶を失っているので麻生恭介という人間性もよく分からないのだが、このステイルがあてにするくらいの男なら相当強いのでは?、と上条は思う。
ステイルは行くよ、と言って二人は自動ドアをくぐり「三沢塾」の中に入っていった。
上条達が「三沢塾」に入った同時刻、麻生はまだ部屋の中にいた。
正確にはあの神裂が出て行ったあとそのままベットに転がり寝てしまったのだ。
携帯を確認すると何件か上条の電話が来ている事に気づくが、どうせ一緒に行こうという誘いだろうと判断してかけ直さなかった。
どうしようか、と麻生は考える。
正直、あの二人が居れば事件は解決するだろうと考えているのだが、少しでもこの一件に関わる振りでもしておかないと指示に従わなかったとしてインデックスを回収されるかもしれない。
麻生はゆっくりと立ち上がり服を着替えて部屋を出て「三沢塾」に向かう。
出来れば着いた頃には全てが解決していると願いながら歩いていると。
「麻生恭介!!」
麻生の耳に聞きなれた声が聞こえ振り返る。
そこには麻生の恩人でもある、吹寄制理がなぜだか知らないが怒りながらこちらに向かって歩いてくる。
彼女は愛穂や桔梗と同じ麻生の命の恩人で幼い頃、学園都市に来た麻生がたまたま会った制理に問いかけた時、偽りない答えを答えそれが決め手のなり今の麻生がいる。
文字通り命の恩人なのだ。
それから高校になって再開したのだが制理はあの時の麻生の事は覚えていなかった。
だが、それでも麻生は恩人に変わりはないと思っている。
「お前は夏休みなのに制服なのか。」
「さっき学校に行っていたのだから仕方がないでしょ。
それよりも大覇星祭の出場する種目、まだ貴様だけ決まっていないのよ。」
「大覇星祭はまだまだ先の事だろ。
まだ決めなくても大丈夫だと思うのだが。」
「いいえ、既に運営委員会は種目のエントリー用紙を配っている。
大きな行事だから早めに決めて色々打ち合わせがあるのよ。
だから早く決めろ!!」
「お前、やる気満々だな。」
「貴様がやる気がなさすぎるのよ!!!」
麻生はこういった行事には一応参加するが、制理のように進んでやるような男ではない。
早く「三沢塾」に行って用事を片付けたいのだが、目の前の制理がそれを許してくれなさそうだ。
制理から種目標を受け取り比較的に楽な行事を選び、極力競技に入る回数を少なくする。
制理は麻生が決めた種目を見てもう少し参加しない、とぶつぶつ文句を言う。
「それじゃあ、俺は用事があるから。」
今度こそ「三沢塾」に向かおうとするが何かを思い出し振り返り制理に言う。
「この夏休みは色々健康器具が出てくるけどあんまり買いすぎるなよ。」
それを聞いた制理は一瞬赤い顔になるがすぐに怒鳴りかけてくる。
「大きなお世話だ!!!」
すぐにでも捕まえて頭突きをしてきそうなのでその場を退散する。
そして、「三沢塾」に辿りつき麻生は「三沢塾」を観察する。
(一見、何にも怪しい所はないが・・・・)
世界には力や意思がある、これは麻生自身が証明している。
地脈や龍脈といった人間でいう血管のような管が世界中に張り巡らされていて、人間の魔力と同様それ単体ではあまり力はない。
その世界の力は空気と同じく通常の人間、魔術師も感知することが出来ない。
それが出来るのは巫薙や風水師、そして麻生だ。
だが、このビルはそういった力がないのだ。
ステイルはルーンという魔術を主に使っているのでこの異常に気が付かなかったのだが、麻生は星の力を扱うのでその異常にすぐに気付いたのだ。
麻生は躊躇することなく「三沢塾」に入る。
中は学生で一杯になっていてこれから勉強する者や家に帰る者など様々だ。
すると、スーツを着て眼鏡をかけたいかにもインテリな雰囲気を出している男が麻生に近づく。
「この三沢塾に入学にきたのかい?」
ステイルは魔術師、上条は幻想殺しという能力を持っていたのでアウレオルスはこの二人を異常者と認識して表、つまり普通の学生には見えない様にした。
しかし、麻生は能力を使わなければ身体能力が高い学生だ.
アウレオルスは麻生を入学希望者だと思ったのだろう。
だからこそ、麻生はこういった。
「いいや、此処の錬金術師に会いに来たんだ。」
麻生がそう言うとまわりの空気が一転した。
先ほどまで話していた男は突然、振り返り自分の仕事場に戻る。
先ほどの雰囲気とは違い死が溢れる無人の戦場跡に切り替わったのだ。
麻生はその雰囲気を気にせず進みエレベーターの横の壁にもたれ掛けている鎧の纏った人がいる事に気づく。
その足元には大量の血だまりが出来ていて銀色の鎧は潰れている。
それは死体だった。
麻生は自分達以外にアウレオルスを討伐しにでも来たんだろうと考える。
麻生は死体を見るのは初めてだが冷静に判断する。
麻生はこんな死体が可愛く見えるくらいの地獄を見たので慣れているのだ。
エレベーターのボタンを触ってみるがものすごく硬く全く反応しない。
この建物は表の世界なので今は裏の世界にいる麻生はドア一つ開ける事は出来ない、さらに自力で出る事も不可能だ。
麻生の能力を使えば出る事は出来るがそれをするなら先にアウレオルスを倒した方が早いと麻生は考える。
麻生は早速、疲れた顔をしながら非常階段を上がっていく。
とりあえず最上階にいるだろうと適当に考え階段を上がっていく。
そして階段を上がっていくとふと目の前の廊下に黄金の水溜りが出来ていた。
麻生はそれに近づき右手を伸ばし指先がその水溜りに触れる。
(これは魔術で作られた黄金か・・・・そうなると・・・)
アウレオルスについて考えようとしたが後ろからヒュンと音がした直後、麻生の後ろでガン!!とぶつかる音がしてその思考を停止する。
振り返るとイタリア製の革靴を履いてそこから伸びる二メートルに届く細身の身体には、高価な純白のスーツに包まれていて髪は緑でオールバックのような髪型をしていた。
その名はアウレオルス。
麻生は何かが風を切る音がしたので即座に自分のまわりに空間の壁を作って防御したのだ。
アウレオルスの右手の袖口から黄金の鏃が出ていた。
「悄然。
我が「瞬間錬金」を弾くとは・・・・ただの少年だと思ったが、貴様何者。」
「俺か?俺は・・・・」
麻生は聞かれた事を答えようとしたが止める。
「いや、答える意味がないな。」
「なに・・・」
「お前は偽物だ。
そんな奴にいちいち話をしても意味がない。」
麻生は興味をなくしたのかそのまま振り返り階段を目指す。
その瞬間また何かがぶつかる音がした。
言うまでなく鏃と空間の壁がぶつかった音だ。
「厳然。
貴様は生きて此処から出さん。
此処で黄金となるがいい。」
殺意を込めた目でにらむが麻生は大きなため息を吐いてアウレオルスと向かい合う。
「素直に引けば自分が本物だという幻想を持てたのにな。
まぁ、お前は人形だし人を殺した事にはならないだろ。」
「厳然。
図に乗るな!!」
アウレオルスの両腕の袖口から十本もの鏃が、一斉に麻生に向かって飛んでくる。
麻生は欠伸をしながら飛んでくる鏃を見ている。
そしてアウレオルスの視界から麻生が消えた。
「なっ!?」
アウレオルスは周りを見る前に自分の右側面から強い衝撃が襲い壁に打ち付けられる。
眼を右方向に向けると麻生がアウレオルスの首を押えつけていた。
麻生は能力を使いアウレオルスの隣に空間移動したのだ。
「さて、お前に時間をかけている暇はない。
悪いが一撃で終わらせる。」
そして、アウレオルスの首を絞めていない方の左手に拳を作る。
アウレオルスは抗おうとするが動くどころか、声を出す事も考える事すらできなくなる。
麻生はアウレオルスに触れているので人体に干渉して一切の行動を封じている。
アウレオルスの脇腹に麻生の拳がめり込み、さらに裏の世界に居るので壁と板挟みになりその間に居るアウレオルスに凄まじい衝撃が身体に走る。
声をあげる事無くアウレオルスは絶命する。
麻生は運動の向きを変換して一時的に拳の衝撃を強くしたのだ。
足元でアウレオルスの死体が転がるが麻生は気にも留めず階段を目指す。
だが、階段を上がる直前麻生の上から紅蓮の槍が降り注いだ。
後書き
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