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戦国異伝

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第九十四話 尾張の味その六


 そしてその青の織田家の主としてだ。信長も言うのだった。
「確かにのう」
「そうした風潮が急にできてきましたが」
「武田家は火じゃな」
 赤、まさにそれだというのだ。
「攻めること火の如しじゃ」
「その火ですな」
「間違いなくな。そして上杉は黒じゃが」
「黒は水」
 細川は五行思想から述べた。
「毘沙門天は即ち多聞天ですが」
「四天王で北を守護しておるな」
「それで黒なのでしょうな」
「我が家の青は。わしが好きでそうさせておるが」
 信長の好みからだ。はじまりは。
 だが、だ。彼はこう言うのだった。
「青は東で木、春じゃ」
「春ですか」
「それの意味じゃな。戦国の乱世を終わらせて」
「天下に泰平の春をもたらされますか」
「その意味があったな。わしも気付かぬうちにそうしておったわ」
 だから青に定めたというのだ。
「思えば妙な因縁じゃな」
「左様ですな。しかし織田家の青は」
「うむ、どうであろう」
「見栄えがよいかと」
 具足に武具に旗、それに礼装も何もかも青なのだ。それがよいというのだ。
「まるで海の様です」
「それになるか」
「進む有様の波の如くです」
 青であるが故にだ。そうなっているというのだ。
「よいものですな」
「そうであればよいがな。ではじゃ」
 ここまで話してだ。そのうえでだった。
 信長は家臣達に着替える様に告げた。そのうえでだ。 
 今日は幕府に向かう。そして義昭の前で一同で拝謁するのだった。
 その先頭にいる信長にだ。義昭は上座から鷹揚だがせわしなくこう声をかけてきた。
「おお、よく来てくれたの顔をあげい」
「お言葉に甘えまして」
「皆顔をあげよ」
 信長が顔をあげるその前にだった。
 義昭は自ら彼等全員に告げた。そのうえでだ。
 織田家の面々の顔を見たがまずはだった。松永のその顔を見て怒りに震えて言うのだった。
「この者だけは許せぬ」
「どうされよというのでしょうか」
「即刻切り捨てい!」
 怒りに震えたその声でだ。信長に告げるのだった。
「即刻じゃ。そうせよ!」
「お言葉ですが」
 だが義昭のその言葉にだ。信長はというと。
「それはできませぬ」
「何っ、それは何故じゃ」
「今この者は織田家の家臣です」
 こう言うのだった。
「幕臣ではありませぬ故」
「できぬと申すか」
「若し罪があれば」
 その時にだというのだ。
「この信長が断を下そう」
「罪なぞ既に犯しておるわ」
 義昭は間髪入れず信長に言い返した。
「言うぞ、よいか」
「はい」
「まず我が兄上義輝を殺した」
 最初に挙げる松永の罪はこれだった。
「将軍である兄上を襲い殺したのだぞ」
「そのことは存じております」
「そしてそれだけではない」
 まだあるというのだった。義昭は続ける。
「東大寺の大仏も知っておろう」
「焼いたことですか」
「平清盛と同じことをしたのだぞ」
 平家物語で彼の悪名は定まっていた。戦国の世においても彼の悪名は高い。 
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