戦国異伝
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第九十三話 朝廷への参内その一
第九十三話 朝廷への参内
信長は今は礼装に身を整えていた。己のその青い礼装を鏡も使って見回してだ。こう言うのだった。
「ふむ。久方ぶりに着るがのう」
「さまになっていると仰るのでしょうか」
「わりかしな。いい感じではないか」
実際に共にいる林にこう返した。信長は今は彼と共に本能寺の一室で服を整えている。林は服の着方についても信長に指南する役を務めているのだ。
それ故に今の信長を見る目は厳しい。だが確かな声で言えたのだった。
「それがしから見ましても」
「いいのじゃな」
「これで問題ありませぬ。後はです」
「宮中でのしきたりじゃな」
「まずはです」
書、宮中について書かれたそれを出してだった。林は信長に色々と話をはじめた。
「歩き方、それに礼もまた」
「ふむ。そのやり方でいくか」
「はい、公方様のそれではなく」
「よりこちらの位を落としてじゃな」
「そうしましょう。それにですが」
林はさらにだった。目を鋭くさせて述べた。
「間違っても。宮中で居眠りや粗相をしてはならぬので」
「特に目を冴えさせねばならぬな」
「宮中に入る前に茶を飲むべきかと」
目を覚ましておく為にだ。その為にだというのだ。
「それがよいかと」
「そうじゃな。まあ流石に大丈夫であろうがな」
場所が場所だけにだ。誰もが緊張して居眠りなぞせぬだろうというのだ。だが、だった。
信長もだ。ここは慎重にこう言ったのだった。
「しかしじゃな」
「はい、念には念を入れまして」
「それがよいな。新五郎の言う通りじゃ」
林の考えをよしとした。そうしてだった。
信長は宮中に赴く前に家臣達に茶も飲ませることにした。そのうえで。
林と細かく儀礼の打ち合わせをする。それを終えてからだった。
家臣達を集める。その場でこう言ったのである。
「さて、帝の御前に行く前にじゃ」
信長は己の前にいる彼等に対して告げていく。
「茶を飲もうぞ」
「目覚ましですか」
「その為にですな」
「そうじゃ。その為にじゃ」
茶を飲もうとだ。彼等に告げたのである。
「それでよいな」
「畏まりました。それでは」
「有り難く馳走になります」
「とはいっても数が多い」
主だった家臣達だけでもかなりの数になっている。織田家も大きくなっていた。
彼等のその数を見てだ。信長は言った。
「利休も他の者も茶を煎れられる者はどんどん入れよ」
「そして全員で飲む」
「そうするというのですな」
「そういうことじゃ。宮中で粗相はできぬ」
これだけはだった。まさに。
「帝の御前じゃからな」
「この国の主であられる」
この場を任されている林もだ。このことを念押しして述べた。
「そうした方の御前じゃからな。わかっておるな」
「はい、それはもう」
「くれぐれも」
「では飲もうぞ」
こうしてだ。宮中に参内する前に皆で茶を飲んだ。彼等は皆既に青の、織田家の礼装に着替えている。その姿で馬に乗り本能寺を出た。
無論馬の鞍も共に進む足軽達も青い具足に旗、そして槍を手にしている。青い者達がキュ都の大路を進む姿は民達もはっきりと見た。そのうえでだ。
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