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戦国異伝

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第九十二話 凱旋の後その十二


「忌々しいもの。そしてそれは月も同じじゃな」
「そうじゃ。月もまた光ぞ」
「我等は闇に生きる者達ぞ。そのことは忘れた訳ではあるまい」
「日も月も我等にとってはまことに鬱陶しいものじゃ」
「光そのものがじゃ」
「光か。見てもじゃ」
 どうかとだ。また言う松永だった。
 彼の後ろの影達はまだ言う。次の言葉は。
「悪いものかのう」
「当たり前じゃ。我等は闇の者達ぞ」
「それでどうして光を好む」
「そんな筈があるまい」
「違うか」
「それもそうじゃがな」
 一応はそれを認める松永だった。彼等、松永自身も入れて光というものは決して認めず受けれ入れることはないことはだ。よくわかっていた。
 だがそれでもだ。彼はこう言うのだった。
「しかしのう。光も見てみるとじゃ」
「ふん、おかしな趣味じゃな」
「全くじゃ」
 こう返す影達だった。
「御主は只の闇の者ではないというのに」
「十二家の一つの主じゃぞ」
「松永家のな」
「それでもそう言うか」
「戯言にしても」
「ははは、まあ戯言じゃ」
 松永が笑って言ってもだ。影達の反応は微妙なものだった。彼等は顔は見えないがそれでも奇怪なものを見る感じで彼に言うのだった。
「まことであればよいがな」
「しかし御主もわかっておろう、我等のことは」
「その絶対の掟は」
「無論じゃ。わしとて魔界衆」
 自らだ。この名前を出してもみせる。
「わかっておらぬ筈がないではないか」
「うむ、その言葉忘れるでないぞ」
「決してな」
 釘を刺してきた。明らかに。
 彼等は疑ってはいなかったがそれでも念を押す感じで松永に対して告げてそのうえでだ。闇の中に消えながらさらに彼に述べたのだった。
「しかし。織田家に入ったのは最初はどうかと思ったがな」
「中々面白いではないか」
「草になるつもりか」
「ふむ。草とな」
 草という言葉にだ。今度は松永の方が反応を見せた。
 彼はそう言われても悪い感じはしないという顔でだ。己の後ろに消えていく影達に対して述べた。
「蠍が草となるか」
「蠍は草原の中にも隠れるらしいな」
「琉球の話を聞くとな」
 影達も蠍のことは詳しく知らなかった。日之本にはいないからだ。それで憶測として語るのだった。
「御主はそれか」
「そして織田家を頃合いを見て刺すのだな」
 その針で、だというのだ。
「それは面白いと思うぞ」
「流石十二家の中でも異才の持ち主よ」
「妙な手を考えるわ」
「そう思っておいてくれ。ではじゃ」
「うむ、またな」
「また会おうぞ」
 影達は松永に別れの言葉を告げそのうえでだった。今は完全に闇の中に消えた。松永は彼等の方を振り向きもしなかった。そのうえでだ。
 己に用意された部屋に入る。そこには彼の直属の家臣達がいた。その彼等にだ。
 松永は楽しげに微笑み。こう告げるのだった。
「では我等は織田家の家臣となる」
「完全に、ですか」
「もしや」
「面白い家ではないか、織田家は」
 これが彼の直属の家臣達への言葉だった。
「家臣として中におるのも悪くない」
「ですが我等は魔界衆です」
「織田家による天下統一は我等にとって害」
「戦乱が終わり血や嘆きが減ってしまいまする」
「それは甚だ不都合ですが」
「魔界衆か。いや、よいか」
 言おうとしたが視線を一瞬だけ、家臣の誰にも気付かれぬ様に右にやりそのうえでだ。彼はこう言ったのだった。 
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