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戦国異伝

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第九十二話 凱旋の後その六


 何処か滑稽な手振りや仕草も交えている。高貴な様でそれが入っている。そうした仕草をしながらだ。彼は幕臣達に言うのだった。
「では織田信長はすぐにここに来るのかのう」
「いえ、長戦だったので今日はこれでお休みです」
「そうされます」
「無理はできぬか。では明日じゃな」
「明日は帝の御前に赴かれます」
「朝廷に行かれます」
 幕臣達はすぐに義昭に告げた。
「ですから明日もです」
「この御所には来られませぬ」
「ふむ。仕方ないのう」 
 義昭といえば帝のことはわかっている。幾ら室町幕府といえど朝廷の権威には前には出られない。これは幾ら実権があってもこの国では無理だった。
 それでだ。義昭は納得した顔になって言ったのである。
「ではじゃ」
「はい、明後日に」
「その時に信長殿と会われましょう」
「そうするか。しかしよくやったわ」
 義昭は公家の化粧にしている顔を笑わせている。
「あの者のお陰じゃな」
「そのお陰で、ですな」
「天下は大きく泰平に向かいました」
 信長が近畿とその周辺のかなりの部分を押さえたからだ。信長はこれで七百万石に達する天下に比類のない大名になった。そしてそのことは。
 信長が擁する幕府の安定にもつながる。幕臣達はこう義昭に述べたのである。
「まさに織田信長殿は天下の為の方です」
「まことに大きな方です」
「そうじゃな。よいことじゃ」
 今は素直に喜んでいる義昭だった。
 彼は今は飛び上がってその場で跳ねんばかりに喜んでいた。まさに有頂天だった。
 だが宿にしている本能寺、高い壁はおろか堀に見事な門まで構え小さな城の様になっているその寺に入った信長はこう主だった家臣達に述べていた。
「さて、この度都にいる時は少ない」
「ではすぐにですな」
「美濃に戻られますな」
「そうする。長く留守にしたしな」
 そのことも頭に入れている信長だった。
「都にいるのはすぐでじゃ」
「それで岐阜に戻るのですな」
「早いうちに」
「とはいっても何もせぬ訳にはいかぬ」
 このこともわかっている信長だった。
「明日は帝の御前に参上してじゃ」
「明後日は公方様ですな」
「お二方に」
「帝じゃな」
 信長は真剣な面持ちになっていた。帝を意識してだ。 
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「さて、帝か」
「殿、宜しいでしょうか」
 帝のことになるとだ。林はいつも以上に真剣な面持ちで信長に言ってきた。
「帝となるとやはり」
「作法が問題になるな」
「礼法のことは」
「既に書では読んでおるがな」
「ですがそれでもですか」
「新五郎、御主はそうしたことにも詳しかったのう」
「僭越ながら」
 自信があると返す林だった。実際に彼は織田家においてそうした礼法については第一だった。信長もそれ故に彼に対して言ったのである。
「ならばじゃ。御主に取り仕切りを任せる」
「畏まりました」
「明日じゃができるか」
「お任せ下さい」
 林も確かな声で応える。 
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