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戦国異伝

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第九十二話 凱旋の後その一


                     第九十二話  凱旋の後
 都に戻った信長はすぐに都の民達の熱い歓迎を受けた。
「おお信長様じゃ!」
「信長様が帰ってこられたぞ!」
「天下を泰平にされるらしいぞ!」
「都もこれで落ち着くぞ!」
 口々にこう言ってだ。そのうえで信長を出迎えるのだった。彼の軍勢の一連の勝利のことはすぐに都に伝わっていたのだ。だから彼等も今こうして出迎えたのだ。
 その織田軍の中には柴田や丹羽達もいた。その彼等にだ。
 そっと森が来てだ。こう囁いたのだった。
「御主達もやったな」
「はい、何とかやりました」
「国を手に入れました」
 柴田も丹羽も誇らしげな笑みで森に対して答える。まずは柴田が言う。
「六角氏を完全に下しました。これで伊賀は我等のものです」
「丹波も手に入れました。あとは治に入ることができます」
「凄いのう。流石は織田家の軸じゃな」 
 森は笑って柴田と丹羽をそれと評したのだった。
「これで近畿における我等の敵はおらんようになった」
「ですな。それでなのですが」
 丹羽がだ。ここで柴田と森に言ってきた。その言うこととは。
「丹波を手に入れた功ですが」
「明智殿じゃな」
「はい、あの御仁が素晴しい仕事をされました」
「丹波の波多野氏に自身の母君まで人質に出されようとしたとか」
「明智殿は苦労されている間も常に御母堂を大事にされてきました」
 それだけ母親思いなのだ。明智は孝行者でもあるのだ。
 だがその明智があえてその母を人質に出そうとしてまでして丹波を手に入れようとまでした。このことについて丹羽は森にこう話すのだった。
「そうおいそれとはできません」
「そうじゃな。しかしそれをあえて行われ」
「その結果丹波一国が手に入りました」
 明智の智恵と覚悟によりそうなったというのだ。
「明智殿の功績は大きいです」
「そうじゃな。しかしあの御仁は」
「幕臣です」 
 このことが問題だった。明智にとっては。
「ですから」
「そうじゃな。だからのう」
「明智殿は織田家の直臣ではありませぬ」
「それは細川殿や和田殿もじゃな」
 この二人も同じだった。やはり幕臣なのだ。
 そしてそれ故にだ。彼等はだった。
「殿が御自身で褒美を与えられることができぬ」
「はい、その功を御自らということはできません」
「それが厄介じゃのう」
 森は難しい顔で言うのだった。
「あれだけの御仁を織田家に入れられぬのは」
「そうですな。それがしとしましては」
「うむ、どう思うか」
「明智殿の功はかなりのものです」
「ではじゃな」
「はい、織田家に加えるべき方々かと」 
 こうも言うのだった。しかしだった。
 ここで柴田がだ。二人にこう言ってきたのだった。
「わしはどうもあれじゃな」
「あれ?」
「あれとは」
「よい者は誰であろうが重く用いる、そして功を讃えることを忘れぬ」
 このことは絶対だった。織田家においては。信長がこのことを破ったことはない。褒美も中々味のあるものを出すことで知られている。
 その信長がだ。どうするかというのだ。
「だから明智殿達にもじゃ」
「褒美を出す」
「そうするというのか」
「うむ、間違いなくそうされる」
 信長への絶対の忠誠と信頼からの言葉であった。
「まあこの都での論功でわかることじゃ」
「言われてみればそうじゃな」
 森は柴田のその話を聞いて述べた。
「殿は相手が誰であれ功には報いられる方じゃ」
「だからこそです。必ず」
 柴田は森に丁寧な口調で話した。流石に年配、しかも織田家の武の柱である森に対しては腰を低くさせている。そのうえでの話だった。 
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