戦国異伝
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第九十一話 千利休その二
「その言葉に」
「ありませぬ」
「若しあればその時は」
「わかった。ではじゃ」
ここまで聞いてだ。信長も頷いた。そのうえでだ。
二人にだ。自分からこう言った。
「顔をあげい」
「はっ、それでは」
「そうさせてもらいます」
「これから宜しく頼むぞ」
鷹揚な笑みでの言葉だった。
「織田家の力になってもらう。そしてじゃ」
「そして、ですか」
「それでは」
「茶を用意しておる」
信長は今度は利休を見ながら述べた。
「早速飲もうぞ。してそこの者」
「はい」
信長はここではあえて名前を呼ばなかった。そのうえでの言葉だった。
そして彼もだ。それに応えたのだ。
「名を何という」
「千利休と申します」
この名前をだ。彼は名乗った。
「前は千宗易といいましたが」
「格を上げたな」
「そうして頂きました」
「帝がそうされたと聞くが」
「その通りでございます」
「左様か。では千利休よ」
あらためてだ。信長は利休に言った。
「茶はどうじゃ」
「喜んで」
利休は言葉は少ない。しかしだ。
その目の光は強く表情には賢者の趣がある。そしてだ。
その気はかなりのものだった。信長を前にしても何らひけは取らない。そしてその気を発しながらそのうえでだ。信長に応えているのだった。
その彼がだ。信長に応えて言う言葉は。
「ではそれがしもまた」
「茶を共に飲むか」
「そうさせてもらいます」
「では皆の者、場所を変えるぞ」
信長は利休だけでなく今井や津田、そして己の家臣達にも述べた。
「然るべき場で茶を楽しむぞ」
「畏まりました。それでは」
「今より」
家臣達も応えてだ。そのうえでだ。
荒木が設けた茶の場、陣中だがその趣きが置かれた場に入った。その場を見てだ。利休は信長に対してだ。まずはこう言ったのだった。
「宜しいでしょうか」
「どうしたのじゃ?」
「この場ですが」
「どうだというのじゃ?この場は」
「お見事です」
口元だけで微かに笑ってだ。利休は信長に述べた。
「ここには茶の道があります」
「ほう、それがあるか」
「しかもです」
茶の道、それに加えてだというのだ。
「ここには詫び寂びがあります」
「それがあるか」
「あります。そしてこの場を設けられたのは」
荒木を見た。すぐにだ。
そして彼は荒木を見つつ信長にだ。こう言ったのだった。
「荒木村重殿ですな」
「ほう、わかるのか」
「茶の道がありしかも詫び寂びがある」
その二つもある。そこからわかるというのだ。
「これだけのことができるのは松永久秀殿か」
松永もいるがだ。彼ではないとも言うのだった。
「荒木殿しかおられませぬ」
「して何故その者だと思う」
「松永殿には松永殿の趣きがあります」
彼のことも理解している言葉だった。
「松永殿の詫び寂びがあります」
「しかし今のそれはか」
「荒木殿のものです。ですから」
荒木が行った、そうだというのだ。
「違うでしょうか」
「その通りよ。すぐにわかったのじゃな」
信長は利休の言葉をここまで聞きだ。そのうえでだった。
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