戦国異伝
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第九十話 堺衆その十
「何としてもです。それは避けましょう」
「ですな、ではそうしたことをまとめる為にも」
「我等も参りましょう」
今井と津田も応えてだ。そのうえでだった。
彼等は堺を出て織田家の本陣に向かった。そしてその報はすぐに信長の下にも届いた。
信長はその本陣で話を聞くとすぐに満足そうに述べた。
「ふむ。楽しみじゃな」
「千利休殿との会見がですか」
「それがなのですか」
「そうじゃ。堺の町衆と会えることもよい」
このことも楽しみだという。だがその中で最もだというのだ。
「しかしそれ以上にじゃ。やはりのう」
「あの天下随一の茶人である千利休」
「あの御仁と会われることが」
「楽しみじゃ」
信長はまた言ったのだった。
「実にのう」
「ですか。そこまでなのですか」
「あの御仁と御会いしたいですか」
「そして智恵も借りたいのう」
信長の望みは他にもあった。こうしたものもだ。
「政における智恵をな」
「政ですか」
「それについてもですか」
「うむ、これからはこれまで以上に政が大事になる」
だからだというのだ。
「それ故にじゃ。政の智恵もじゃ」
「利休殿から得たい」
「そう仰いますか」
「ではそうした意味でも」
「会いたいのじゃ」
信長は深い目をしていた。そこにはあらゆるものが映っていた。
「是非共な」
「では、今より用意に入りますか」
「茶の」
「うむ、それをせよ」
こう命じるとだ。ここでだ。
新たに加わった荒木がだ。信長に対して言ってきた。
「殿、宜しければですが」
「千利休の茶を見たいのじゃな」
「はい」
そうだとだ。荒木は信長の言葉に確かな声で答える。
「宜しいでしょうか」
「やはり茶を嗜む者としてか」
「はい、見とうございます」
まさにそうだとだ。荒木はまた答えた。
「この我儘、宜しいでしょうか」
「よい」
微笑んでだ。信長は荒木のその願いに答えた。
だがここでだ。彼は少し残念な顔になってだ。こうも言うのであった。
「しかし。わし等はよいのじゃが」
「我等はよい?」
「と、いいますと?」
「うむ、丹波や伊賀に向けた五郎左や権六達はここで利休を見られん」
このことだった。ここで信長が言うことは。
「それが残念じゃな」
「そうですか。権六殿達ですか」
「あの方々もですか」
「あれで茶が好きな者が多い」
織田家の面々で茶好きはかなり多くなっている。そして茶器好きもだ。これは信長の影響であることは言うまでもない。無類の茶好きである彼の。
「だからじゃ」
「仕方がありますまい」
信行がここで兄に言った。
「それも。今は致し方ありませぬ」
「それはそうじゃがな」
「そうです。ですから」
「うむ。権六達が利休の茶を味わうのは次の機会じゃ」
「また場を設けましょう」
「そうじゃな。それではな」
柴田達のことは仕方がないとだ。信長も諦めるしかなかった。
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