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戦国異伝

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第九話 浮野の戦いその一


                 第九話  浮野の戦い
 清洲に入った信長の下にはだ。国人達も織田家所縁の者達も次々に馳せ参じてきていた。最早彼は尾張において揺ぎ無い地位を築きつつあった。
 しかしだ。彼は清洲城において安穏としていたわけではなかった。むしろその入って来る者達を迎え入れてそのうえで。政を進めていた。
「清洲をはじめあらたに領土とした場所もだ」
「はい」
「どうされるのですか」
「これまで通り兵と百姓は分ける」
 まずは家臣達にこう言うのだった。家臣達の数も増えてきている。
「そしてその分百姓の数を増やす」
「それで働き手を確保する」
「それはこれまで通りですね」
「左様だ」
 そうなのであるというのだ。
「開墾と新田開発を進めだ」
「治水もですね」
「そちらも」
「尾張は川が多い」
 その尾張にいるからこそわかっていることであった。信長は尾張の者だ。だからこそよくわかっていることだったのである。
「だからこそ余計にだ」
「はい、それはよいことです」
 ここで言ったのは九鬼だった。
「そして水のことはです」
「二郎、これまで通りじゃ」
 信長はその九鬼に対して言葉を返した。
「水のことは任せる」
「お任せあれ」
 九鬼も確かな面持ちで頷く。それからまた述べるのであった。
「それがしが水を調べ」
「そして治水をするのじゃ」
 これが信長の治水だった。その様にして着々と進めているのである。
 そしてであった。信長の政の話はまだ続いた。
「そして街じゃ」
「楽市楽座ですね」
「そして関も」
「銭は取らぬ」
 そうするというのであった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「街はその様に」
「そしてじゃ」
 信長の話はさらに続く。
「鉄砲もさらに増えるな」
「そして兵もです」
「清洲を手に入れ兵はかなりのものになりました」
「国人やあらたに加わった者達も入れるとです」
 そうするとであった。今の信長の兵力は。
「八千です」
「兵と百姓を分けた結果それだけになりますが」
「それでもよいですね」
「うむ、よい」
 信長は平然として頷いてみせた。
「八千もあれば充分じゃ」
「して殿」
 柴田が険しい顔で己の座から申し出てきた。彼は平手のすぐ左だった。そこに彼の家老としての地位の高さが出ていた。
「次の敵はです」
「織田信賢ですね」
「そうじゃ、あ奴じゃ」
 まさに彼だというのであった。
「あ奴だけはじゃったな」
「その通りです」
「既に兵を集めているそうです」
「おそらく。このまま」
「あ奴と織田信清じゃな」
 信長はもう一人の名前も出した。 
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