戦国異伝
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第八十七話 朝攻めその七
「御主等も付き合え。共に飲むぞ」
「では久助殿もですか」
「ここに呼んで」
「無論じゃ。気付けじゃ」
その為にだというのだ。滝川も呼びだというのだ。
「そして飲みじゃ」
「そうしてですな」
「朝を迎えますか」
「そうするぞ。では呼ぶのじゃ」
こう言ってだ。そのうえでだった。
信長は本陣に滝川も呼びそのうえでだ。主立った将達と共に茶を飲む。その見事な緑の泡立つ茶を美味そうに飲みながらだ。信長は言うのだった。
「やはり茶はよいわ」
「殿は酒は飲まれぬと聞きましたが」
「うむ、飲まぬ」
筒井達大和の者達も呼ばれている。信長はその筒井に笑って答えた。
「というよりかは飲めぬ」
「そうなのですか」
「どうな。杯一杯を飲めばじゃ」
それでだ。どうなるかというのだ。
「頭が痛うなり次の日も苦しくなる」
「ではそもそも酒自体がですか」
「身体が受け付けぬのじゃ。どうもな」
「左様でしたか」
「わしは酒ではなく茶じゃ」
そちらだというのだ。今実際に飲んでいる。
「こうしてこれを飲むのじゃ」
「ううむ、では酒は」
「酒を造るのは止めぬ」
自分が飲めなくともだ。それでもだというのだ。
「皆飲めばよい」
「殿が飲めなくともですか」
「それでもよいのですか」
「飲めぬのはわし一人じゃ」
信長は言った。
「しかし他の者はどうじゃ」
「飲めます」
「だからですか」
「そうじゃ。茶も同じじゃ」
翻ってだ。信長は好む茶もだというのだ。
「わしが飲むからよいのではない」
「誰もが飲むからですか」
「植えさせるのですか」
「そうじゃ。そうする」
まさにそうするというのである。
「酒も茶も大いに造り栽培すればよい」
「そしてそれがですか」
「国も民もですな」
「そういうことじゃ。豊かになる」
信長はあくまで国と民のことを考えていた。豊かにすることをだ。
だからこそだった。彼はこう言うのだった。
「では茶もじゃ。大いに植えさせるぞ」
「はい、それではです」
「戦が一段落つきましたら」
「米だけではない。他のものも作るのじゃ」
信長は政を考えていた。戦の場においても。
そのうえで茶を飲み目を確かに開けていた。そうしてだ。
彼はやがて空が白くなっていくのを見た。朝日が昇ったのを見て言うのだった。
「いよいよじゃな」
「遂にですな」
「夜が明けましたな」
「うむ」
信長は池田と森の言葉に応えながらその朝日を見る。夜の闇はもう消えようとしている。
そしてその白くなろうとしている中でだ。彼はさらに言う。
「久助、どうするのじゃ」
「はい、それではです」
その滝川が信長に応えてきた。畏まった態度で。
「今より攻めまする」
「そうか。朝か」
「実はこの時を待っていました」
他ならぬだ。朝になるのをだというのだ。
「さすればです」
「夜襲は避けたか」
「敵は夜襲を予測しておりました」
それはその通りだった。彼等は織田軍が何時来てもいい様に身構え警戒していたのだ。滝川はそのことを誰よりも鋭く見抜いていたのである。
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