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戦国異伝

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第八十七話 朝攻めその六


「そうしようぞ」
「だからこそ殿もお休みになられましたか」
「先程まで」
「寝たぞ。ではじゃ」 
 それでだというのだ。信長はここで傍に控える小姓達に述べた。無論彼等も交代で休ませている。そうして英気を保たたせてもいるのだ。そのうえでだった。
 彼は森と池田、そして生駒達にだ。こう言った。
「では茶じゃ」
「茶ですか」
「ここで茶を飲まれますか」
「茶はよい」
 茶好きらしい言葉だった。まさに。
「あれを飲めば目が醒めるわ」
「ですな。あれは飲めば目が醒めます」
「そして元気が出ます」
 森も池田も知っていた。そのことはだ。
「では茶を飲みですか」
「そのうえで」
「朝を迎えるぞ。ついでに腹ごしらえじゃ」
 飯も食うというのだ。ここでだ。
「腹が減ったわ。湯づけにするか」
「また湯づけですか」
「お好きですな」
「簡単じゃからな。それにじゃ」 
 湯づけとだ。それに加えてだというのだ。
「味噌じゃ。味噌も舐めるぞ」
「前から思っていたのですが」
 彼を幼い頃から知る池田が信長に言ってきた。やや怪訝な感じの顔になっている。
「殿は味噌がお好きですな」
「うむ、好きじゃ」
 その通りだとだ。信長は池田のその問いにすぐに答えた。
「あれも口にすると頭が冴えるわ」
「それだけではありませんな」
「味噌は美味じゃ」
 楽しげに笑ってさえの言葉だった。
「あれがあるとまことに違うわ」
「味噌は高いですが」
「しかしその味噌も大きく出回る様にしたいのう」
「味噌もですか」
「梅干しもじゃ」
 これも信長の好物である。彼は甘いものの他にこうした濃い味のものも好きなのだ。
 それでだ。また言う信長だった。
「より広く誰もが口に出来る様にするぞ」
「味噌や梅が広く食われる天下ですか」
「泰平になり多く作られればなる」
 そうしたものが普通に食べられる様になるというのだ。泰平になればだ。
「だからこそ泰平を望む」
「左様ですか」
「そして今はですな」
「茶を飲んで気を立てそうして湯づけと味噌を食う」
 腹ごしらえをしてだというのだ。
「そのうえで朝を迎えようぞ」
「その朝ですか」
「夜ではなく」
「待つのじゃ。わしは待つことは好かんがな」
 所謂せっかちだった。信長の性格の特徴だ。
「ここは待とうぞ」
「では。我等もまた」
「腹ごしらえをいたします」
「いや、御主等も付き合うのじゃ」
 信長は池田達を誘った。何に誘ったかというと。
「茶を飲もうぞ」
「ご相伴して宜しいのですか」
「我等も」
「無論じゃ。茶は一人で飲むものではない」
 だからだというのだ。 
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