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戦国異伝

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第八十七話 朝攻めその一


                  第八十七話  朝攻め
 三好の軍勢との合戦に勝った織田家の軍勢はそのまま摂津に入る。そうして勝龍寺城及び芥川山城を囲みにかかった。その中で信長の本陣に朗報が入った。
「そうか、久助達は無事か」
「はい、河内の国人達を次々と取り込んでおります」
「寺社の者達も加わっております」
 そうなっているとだ。池田と森が信長に報告する。
「河内の全てを手に入れるのも時間の問題とか」
「そうなっております」
「そしてそのまま和泉に入るか」
 信長はこのことも二人に問うた。
「若しくはここに来るのか」
「どうやらこちらに主力を向けられるとのことです」
 そうするとだ。森が信長に答える。
「実際に今久助殿は主だった将達と兵達を連れてこちらに向かっておられます」
「ふむ。河内の次はじゃな」
「この摂津ですか」
「そうじゃ。既に三人衆は四国に逃げた」
 合戦で敗れてだ。彼等はすぐに三好家の本拠地である讃岐や阿波に落ち延びたのだ。そうしてそのうえでその地で県土従来を計っているのだ。
 三好家の領袖である彼等はいない。では誰が残っているかというと。
「やはりあの面頬の男が残っておる」
「あの男ですか」
「得体の知れぬ」
「おそらく知っておる」
 そうだとだ。信長はその森と池田を見て言った。
「あの男のことはのう」
「我等が知っているというのですか」
「あの面頬の男のことを」
「うむ、それもよくのう」
 信長にこう言われてもだ。二人はまだ首を捻る。そうして言うのだった。
「左様ですか」
「よく知っているのですか」
「まあ。今はわからずともよい」
 信長は笑ってだ。二人にこうも話した。
「すぐにわかることじゃからな」
「あの男が誰か」
「そのことが」
「うむ、あの男のおる城も既に囲んでおる」
 面頬の男はそうした意味で既に王手をかけているというのだ。
「ではじゃ。後はじゃ」
「王手の後は詰ませるだけ」
「それだけですか」
「うむ、しかし存外しぶとい男じゃな」
 信長はその男のことをこうも評した。
「あそこで終わりじゃと思ったが。まだじゃからな」
「しぶとい男ですか」
「その者は」
「うむ、しぶとい奴じゃ」
 この言葉もだ。森と池田にとっては謎かけになっていた。それでだ。
 彼等はお互いに見合ってだ。そしてこう話したのだった。
「おわかりになられますか」
「いや、わからん」
 その逞しい皺の目立つ顔でだ。森は池田の怪訝な顔での問いに答える。
「どうにものう」
「そうですな。それがしもでござる」
「我等の知っている者というと」
「尾張か美濃の者か」
「そうなのでしょうか」
「そう考えるのが妥当じゃがな」
 二人にはわからないことだった。あれこれ考えてもだった。
 だが二人はここで頭を切り替えた。それから信長に顔を戻してだ。こう言ったのだった。
「では。戦において確めます」
「その男のことは」
「そうじゃ。それでよいのじゃ」
 二人のその言葉にだ。信長は満足した笑みを見せた。そうしてだ。 
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