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戦国異伝

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第八十五話 瓶割り柴田その七


 六角は青ざめてだ。こう言った。
「いかん!ここで奴等まで来るとじゃ」
「はい、最早打つ手がありませぬ」
「そうなっては」
「まずい、まずいぞ」
 その青ざめた顔でだ。六角は傍に控える家臣達に述べる。
「このままではじゃ」
「はい、騎馬隊だけでも厄介だというのに」
「あの者達まで来ては」
 敗北は決定的だとだ。家臣達も述べる。
「殿、ここはどうされますか」
「このままあの者達までが来てはです」
「真に打つ手がありませぬ」
「どうにもなりませぬが」
「わかっておる」
 苦々しい顔でだ。六角も述べた。そうしてだ。
 彼はすぐにだ。こう命じたのであった。
「円陣じゃ、円陣を組め」
「円陣ですか」
「それを組めというのですか」
「そうじゃ、組め」
 まさにだ。そうせよというのだ。
「よいな、そうせよ」
「畏まりました、ではすぐに」
「今より」
 こうしてだ。六角はすぐに円陣に入ろうとする。しかしだった。
 それは遅かった。的確な判断だったが遅い判断だった。それを見てだ。
 柴田も佐久間もだ。すぐにこう命じた。
「よし、今じゃ!」
「敵が陣を組むその隙を狙え!」
 攻撃を命じたのである。
 その命を受けてすぐにだった。織田家の軍勢は円陣を組もうと動く六角家の軍勢にだ。雪崩れの如く襲い掛かった。青い軍勢が動くそれは波の様だった。
 その波を受けてだ。陣を組む途中の六角軍は瞬時に崩れ去った。
 織田軍は槍を突き立て馬上から襲う。そうして六角軍を次々に倒していく。
 それは本陣にも迫りだ。家臣達が主に言う。
「殿、ここはです!」
「お下がり下さい!」
「最早戦局はどうにもなりませぬ」
「ですから」
「くっ、陣を組もうとしたのが間違いだったか」
 六角は今になって後悔し歯噛みした。しかしだった。
 最早総崩れになった軍はどうにもならずだ。こうなってはだった。
 六角は迫る織田軍を見ながらだ。全軍に命じた。
「退け!退け!」
「はい、後詰はです」
 重臣の一人が応えてきた。
「それがしが引き受けます」
「頼めるか」
「はい、殿は伊賀まで落ち延びて下さい」
 主を逃がす為にだ。己が楯になるというのだ。
「ですからここは」
「済まぬ、それではじゃ」
「間も無く敵が迫ってきます」
 この本陣にもだというのだ。
「ですからここはです」
「任せろというのじゃな」
「伊賀で落ち合いましょう」
「うむ、ではな」
 こうしてだった。六角は後はその重臣に任せてだ。彼は戦場から離脱した。
 怪我をした兵達から逃げてだ。そうしてだった。
 その重臣は槍衾を作り弓矢を必死に放ってだ。織田軍を寄せ付けない。しかしだ。
 六角が戦場を完全に離脱したその瞬間にだ。佐久間はその槍衾を見てこう命じた。
「鉄砲じゃ」
「鉄砲ですか」
「ここでも使われますか」
「あの槍衾には近寄れぬ」
 まさにだ。蟻の子一匹通れぬものだった。それを見てだ。佐久間は言ったのである。
「だからじゃ。ここは鉄砲で撃て、よいな」
「畏まりました。では弓矢の間合いから離れてです」
「そのうえで」
「うむ、撃て」
 こうしてだった。織田軍は火縄銃を構えてだ。その鉄砲で槍衾を撃った。そしてだ。 
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