戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八十四話 炎天下その十三
「ですから迂闊にはです」
「攻められぬというのじゃな」
「残念ですが」
「そうじゃな。普通に考えればそうじゃ」
攻め難いとだ。それは自分でも認める柴田だった。
だがここでだ。柴田は奥村に対して問うたのだった。
「その川はどうなっておる」
「戦場の核ととなるあの川でございますな」
「うむ。そこはどういった深さだった」
まずはそこから問う六角だった。
「川の深さは」
「浅うございました」
奥村は六角が頼りにするその川のことも話した。
「やはりこの暑さで雨がないせいでございましょう」
「そうか、浅いか」
「しかも狭くもなっております」
川幅もだ。普段と違っているというのだ。
「ですからすぐにでもです」
「渡ろうと思えば渡れるのう」
「ですが権六殿、それはです」
できぬとだ。奥村は柴田にすぐに答えた。
「容易ではないかと」
「狭うとも浅うともそこにおるものはか」
「はい、かなり厄介かと」
「それわかっておる」
柴田もだ。それは承知しているというのだ。
そしてそれ故にだ。こう言えたのである。
「川を越えて攻めるとしようぞ」
「またそれは賭けですな」
「一か八かの」
「そうした賭けですな」
「賭けか。わしはせぬ」
主に対しても何も恐れずずけずけと言う。これもまた彼の持ち味だ。とにかく生真面目である。そしてそれ故にこう言うのだった。
「全くじゃ」
「いえ、しかし今はです」
「まさに賭けですぞ」
「そうなりますが」
「言った筈じゃわしは賭けせぬ」
またこのことを告げる柴田だった。そのうえでだ。
彼はだ。こう言うのだった。
「何があろうともじゃ」」
「では、ですじゃ」
「そうじゃ。絶対に勝てるぞ」
「左様ですか。では」
「とにかく我等から攻める」
このことはもう決まっていた。既にだ。
そしてその攻めについてだ。柴田は言うのだった。
「川を一気に渡ってしまうか」
「また大胆ですな」
奥村はその柴田の話に驚きを隠せなかった。
「例え浅く狭くなってはいますが」
「それでも川はじゃな」
「越えることは容易ではありませぬ」
「しかしじゃ。できぬと思っておってもじゃ」
「その実はですか」
「出きる方が多いのじゃ」
これは柴田の見立てだった。かくしてだ。
彼等は積極的に攻めることにした。しかしまだ動かなかった。今は力を溜める様にして動かなかった。だがその目だけは強い光を放っていた。
第八十四話 完
2012・3・24
ページ上へ戻る