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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第八十八話 ダブリンに日は暮れて

                  第八十八話 ダブリンに日は暮れて
ダブリンから宇宙へ脱出しようとするティターンズ。だがドレイク軍はそれに構わず地上に残ろうとしていた。
「あの連中何を考えているんだ?」
ジェリドはそれを見て首を傾げさせた。
「地上に残って。まだ戦うつもりか」
「どうやらそうみたいだな」
カクリコンがそれに応える。
「ここでロンド=ベルと雌雄を決するつもりらしい」
「宇宙には行かないのか」
「後がないと思っているのだろう。ここは彼等の好きにさせればいい」
「それもそうか。俺達は一度は声をかけた」
「ああ」
「それからは知らねえ。任せておくか」
「うむ」
彼等も艦艇に乗り込んだ。夥しい兵器は艦艇に積み、そしてゼダンの門にまで持っていくつもりだ。流石にスードリ等は持っていけなかったが多くの将兵や物資が宇宙に向かおうとしていた。
「また降下することになるかもな」
ジェリドはアレクサンドリアの中で言った。
「それはないんじゃないかい?」
「いや、わからんぞ」
ライラにヤザンが答えた。
「今上の方はブルーコスモスと関係を深めているからな。連中の援助次第でまた勢力を盛り返すことも可能だ」
「木星もあるしな」
カクリコンが言った。
「まだまだ俺達には力があるんだ。また来ることになるかもな」
「その時はもうちょっとましな指揮官を送って欲しいけれどね」
「そうだな」
「もっととんでもないのが来る可能性もあるがな」
「おい、あれよりもか」
ジェリドはヤザンの言葉に顔を顰めさせた。
「あれより酷いとなると俺には想像がつかないぞ」
「下には下がいるぜ」
ヤザンはジェリドにそう返した。
「上には上がいるようにな」
「どんな奴だ、そりゃ」
「あのアズラエルって奴は大したことなさそうだからな」
「あのキザな男だね」
「そうさ。ライラ、御前はあいつについてどう思う?」
「まああんたと同じさ」
ライラは最後まで言わなかった。
「あれは大したことはないね」
「やはりな」
「器も小さいし政治力もあまりないだろうね。地位や金はともかくとして」
「無能というわけか」
「あの若さであの地位にいてそれは普通はないと思うけれど」
マウアーがカクリコンにこう付け加える。
「いや、単に家柄で選ばれた男らしいぜ」
「そうなの」
「ああ。何でもブルーコスモスってのは特定の家の支配が強いらしくてな」
「へえ」
「まるで昔の中南米だな」
ジェリドがそれを聞いて呟く。
「まだそんな連中がいたのか」
「古臭い連中だがな。それでアズラエルはそこの家の一つらしい」
「それでブルーコスモスの理事になったと」
「そういうことだ。まああいつが指揮官になったら洒落じゃ済まねえだろうがな」
「そんな奴をバスク大佐が使うかね」
「使うことは使うだろうさ、無能な奴でも使い道はある」
「駒かい」
「まあそれが妥当だな。俺達の奴にはあまり近付かないようにしとこうぜ」
「そうだね。下手に巻き込まれたら迷惑だからね」
「俺達はあくまでティターンズということか」
ジェリドがまた呟いた。
「そういうことだ。ブルーコスモスじゃねえからな」
ヤザンが最後にこう言ったところで発進準備の放送が入った。彼等はそれぞれの席に着き離陸に備えた。そしてそのまま地上を出るのであった。
「ティターンズは退いたか」
「はい」
この時ドレイクはダブリンの南にいた。そして家臣からの報告を聞いていた。
「先程最後の一隻が出ました」
「そうか。これであの者達は一人もいなくなったな」
「はい」
「これで残るは我等だけとなった。邪魔者は存在しない」
「それではいよいよ」
「うむ、あの二人を呼べ」
ドレイクは命じた。
「すぐに作戦会議に入る。よいな」
「はっ」
まずはビショットとショットが呼ばれた。そして三人は早速作戦会議に入った。
「お招き頂き感謝致します」
「閣下も御機嫌麗しゅう」
「堅苦しい挨拶はよい」
ドレイクは恭しく言葉を述べる二人に対して言った。
「早速話に入りたい。よいか」
「はい」
「それでは」
二人は頷いた。そしてすぐに話に入った。
「聞いてはいると思うがティターンズは宇宙に撤退した」
「はい」
二人はまた頷いた。やはり知っていた。
「この地上に残ったのは我等だけ。そして残った理由はわかろう」
「ここでロンド=ベルと雌雄を決する為ですな」
ビショットが言った。
「左様。流石はビショット殿」
ドレイクはわざとらしい美辞麗句を述べた。
「その慧眼見事なものですか」
「お褒め頂き有り難うございます」
感謝の言葉を述べるがその目は笑ってはいなかった。
「戦いは引き摺るべきではない。決めねばならぬ時がある」
「それが今であると」
ショットが問うた。
「そうだ。このアイルランドで雌雄を決するのだ」
ドレイクはそう言って二人を見据えた。
「それでよいか」
「はい」
二人はまずは頷いてみせた。
「よし。では作戦を語ろう」
傍に控える部下の一人に目配せする。そして壁にかけてある地図を開いた。
「今我々はここにいる」
棒でダブリンの位置を指し示す。
「そして敵はここだ」
ダブリンのそのさらに南を指した。
「そのまま北上して来ている。それを迎え撃つ予定だ」
「ではこのまま防衛ラインを敷き」
「違う」
ショットの言葉を否定した。
「ではどの様に」
「このまま打って出るのだ」
ドレイクは言った。
「攻勢ですか」
「そうだ。今まで何度も防御態勢を敷いても勝てはしなかった。ならば発想を変える」
「攻めると」
「包囲してな」
「取り囲むのですな」
「左様」
今度はビショットに答えた。
「まずは正面はわしが引き受ける」
ドレイクはその作戦について言及しだした。
「右はビショット殿が、そして左はショットが。それぞれ受け持つ」
「三方から攻撃を仕掛けると」
「しかも同時に。おわかりかな」
「御意」
ビショットはドレイクのその言葉に頷いた。
「それならばロンド=ベルも勝てますまい」
「今度の戦いでは全戦力を投入してな」
「畏まりました。ここでロンド=ベルを討ち」
「地上での我等の覇権を確かなものとする。ミケーネやドクーガなぞはその後でよい」
「ティターンズはどうされますか?」
「ティターンズか」
同盟の相手である。だがドレイクは躊躇なく答えた。
「そろそろ潮時であろう。彼等は地上には戻っては来れぬ」
「ネオ=ジオン及びギガノスとの戦いでですか」
「それだけではない。彼等は今新たな敵を迎えようとしている」
「あのバルマーという異星人達でしょうか」
「違う。ザフトだ」
「ザフト」
「それは一体」
「何でもコーディネーターという者達らしい。強化された地上人達のようだな」
「彼等が言う強化人間でしょうか」
「そうしたものだな。今ティターンズは彼等の存在に気付いた」
「ふむ」
二人はそれを聞いて考える顔をした。
「ショットは知らなかったと見えるな」
「はい。そうした者達がいることなぞ」
彼でも知らないことはあったのだ。
「はじめて聞きました」
「私もだ。あのブルーコスモスという者達の話を入手してからな」
「あのムルタ=アズラエルという男ですか」
ビショットが言った。
「そうだ」
「あの男。どうも腹に一物あるようですが」
それはここにいる三人も同じであるがそれについては言及しない。
「彼等は彼等でティターンズを利用するつもりなのだ。そして我等も」
「成程」
「ティターンズはそのザフトとの戦いに入るだろう。そして連邦政府もそれを座視できまい」
「地上の覇権は。その間に手に入れると」
「そしてやがて宇宙に出る。その時に」
「ティターンズとも切れるのですな」
「そうだ。これについてどう思うか」
「閣下の御慧眼、お見事です」
ビショットは心にもない賛辞を送った。
「このビショット、感服致しました」
「全てはこの戦いにかかっているということですね」
「その通り」
ドレイクはあらためて頷いた。
「おわかりかな、ビショット殿、そしてショット」
「はい」
「無論です、閣下」
二人はそれに応えてみせた。当然ながら心からではない。
「それではすぐに作戦の準備に取り掛かろうではないか」
「ドレイク閣下の理想の為に」
野心という言葉は隠した。
「我等の夢の為に」
ドレイクもまた自らの野心は隠した。そして三人はささやかな乾杯の後で別れた。ショットは別れの後でスプリガンに戻って来た。
「おかえりなさいませ、ショット様」
そんな彼をミュージィが出迎えた。
「如何でした、お話は」
「何ということはない」
ショットは憮然とした声で応えた。
「茶番だ。いつもの様にな」
「左様ですか」
「我々の仮初めの同盟はこれからも続けられることになった」
「はあ」
「だが同時に正念場でもある」
「ショット様の夢の」
「そうだ。まずはロンド=ベルを倒す」
「はい」
「同時に・・・・・・わかるか」
ここでショットはミュージィの目を見据えた。
「ミュージィ、私と御前は最早一つだ」
「はい」
「私の夢の為には御前の力が必要なのだ。そして夢を実現した後でもな」
「私に何をせよと」
「働いてくれるか」
ショットは問うた。
「私の為にまた。よいか」
「無論です」
ミュージィは強い声で返した。
「私は。ショット様に全てを捧げると決めておりますので」
「よし」
ショットはそれを聞いて頷いた。
「では。時が来れば頼むぞ」
「何をすれば」
「それはな」
ショットはそれについて話をはじめた。彼もまた強い野心を持っていた。そしてそれに向けて動こうとしていた。ビショットもまた。三人はそれぞれの思惑をその胸に抱きながら戦場に向かおうとしていた。
ロンド=ベルはダブリンに向かっていた。七隻の戦艦はロンドンでの補給を終えた後でコーンウォールからアイルランドに入り北上していた。
「いい国だねえ」
ハッターはアイルランドの大地を見下ろして楽しそうな声をあげていた。
「何か落ち着いた雰囲気でな。老後はこうしたところでゆっくりといきたいもんだ」
「爺くさいわね、ハッちゃんは」
「ハッちゃんと呼ぶな!」
フェイにすぐさま返す。
「ハッター軍曹と呼べ!いつも言ってるだろ!」
「そんな暑苦しい仇名やだ」
「何が暑苦しいか!」
ハッターはそれを聞いてまた怒った。
「この一匹狼ハッター様を捕まえて!失礼だろうが!」
「だって本当に暑苦しいんだもん。だからハッちゃんでいいじゃない」
「ヌオーーーーーーーーーーッ!、何という女だ!」
「でさ軍曹」
「何だ少年」
ケーンに顔を向けてきた。
「あんた達って確かこっちの世界には元々いねえんだよな」
「うむ、どうやらな」
ハッターはそれに頷いた。
「気がついたらここにいた」
「そうなんだよな」
「全然違う世界にいたのよ。それが急に」
「四人共だ。不思議なこともあるものだ」
ライデンも言った。
「こうしたことがあるとは」
「オーラロードみてえなものかな」
「オーラロード!?」
「バイストンウェルの連中がいた世界さ」
「ああ、あの綺麗なお姫様がいたって世界か」
「知ってたのかよ」
「当然だ。この前話を聞いた」
ハッターはそう答えた。
「そうだったんだ」
「話を聞いただけだがこっちの世界とはまた全然違うな」
「そうみたいだな。俺達も行ったことねえけどよ」
タップが言う。
「そっちの世界も違うみたいだしな。どうしてそれで来たのかね」
ライトはそれが不思議だった。
「俺が思うにだ」
ハッターがそれに応える。
「何か誰かの意志があるのかもな」
「意志!?」
「それが誰かまではわからないが。そんな気がする」
「あら、ハッちゃんって随分信仰心が深いのね」
「だからハッちゃんではない!」
「じゃあハッちゃん軍曹っていいかしら」
「何だその気の抜けた名前は!」
「じゃあロボットハッちゃんイケイケゴーゴー軍曹でどうかしら」
「俺の名前を勝手に決めるな!しかも馬鹿みたいな名前だな!」
「そうかしら、けれど似合ってると思うわよ」
「うおおおおーーーーーーーっ!何という口の減らない女だ!」
「確かに」
「本当にアスカ顔負けだね」
「ちょっとシンジ!ドサクサに紛れて何言ってるのよ!」
彼等はこうした感じでリラックスしていた。だがショウ達はそうではなかった。
「いよいよだな」
「ああ」
皆ガラリアの言葉に頷いた。グランガランのブリーフィングルームに集まっている。
「覚悟はいいな」
「当然だ」
まずはニーが答えた。
「その為に今まで戦ってきたのだからな」
「そうか」
「私もです。そして今度こそ母を」
リムルも言った。
「止めます、何としても」
「いいの、リムル」
そんな彼女にキーンが問う。
「何が?」
「若しかすると。お母さんを」
「いいのです」
だがリムルの声に迷いはなかった。
「私も。その為にここまで」
「そう。だったらいいわ」
キーンもそれを聞いて納得した。
「頑張ってね。私もやるから」
「はい」
「他の敵は私が引き受けるから」
「今度は全戦力で来るでしょうね」
マーベルは低く、そして確かな声で呟いた。
「もう後がないのがわかっているから」
「そうだな。ここが決戦になる」
ショウはそれを聞いて頷く。
「泣いても笑ってもこれが最後だ」
「ショウ、ここで決めるのね」
「ああ」
チャムの言葉にも迷いがなかった。
「ドレイクもバーンも。悪しきオーラは俺が断つ」
「俺もそろそろ決めさせてもらいたいしな」
トッドも言った。
「トッドも」
「ああ。ちょっとな。縁があってな」
シニカルな笑みと共に言う。
「越えておきたい壁があるんだ」
「そうなんだ」
「だからな。今回もやらせてもらうぜ」
「どのみちトッドにはいつも通り頑張ってもらいたいよ」
「おい、いつもだったのかよ」
チャムの言葉に声をあげる。
「だってトッドもエースだし」
「いいねえ、その言葉」
エースという言葉に反応を示した。
「パイロット候補生だった俺が。エースだなんてな」
「嬉しいのね」
「当然だろ、エースってのは目標だからな」
「けれどそれで終わりじゃないよね」
「ああ」
顔が真剣なものになった。
「エースになってもまだ先があるからな」
「どうやって先に行くの?」
「かってはこいつのことばかり考えていたけれどな」
そう言ってショウを親指で指差した。
「けど今はな。違うな」
「聖戦士としての責任か?」
「それはねえな、悪いが」
「そっちは相変わらずか」
ニーはそれを聞いて困った顔をした。
「まあ人それぞれだが」
「悪いな。それよりも俺はまだ越えなくちゃいけないものがあってな」
「それは何だ?」
「まあ個人的なつまらねえしがらみさ。すぐにわかるさ」
「そうか」
「どっちにしろそろそろドレイクとも終わりね」
「ああ」
皆マーベルの言葉に頷いた。
「夕方に戦いがはじまりそうね」
「ヘッ、日暮れの中の決戦かい」
トッドはそれを聞いて面白そうに言った。
「流石ドレイクの旦那だ。中々演出も凝ってるぜ」
「トッドはそこまで気が回らないものね」
「うるせえチャム、おめえだってそれは同じだろうが」
「い~~だ、あたしは今度素敵なお婿さんにやってもらうからいいんだもんね」
「っておめえ結婚するのかよ」
「何時かね」
「まっ、似た声の奴と重ならねえようにな」
「だからトッド、それは言うな」
「悪い悪い」
彼等も格納庫へ向かった。そして戦いに備える。日は大きく落ちようとしていた。
ロンド=ベルはダブリンの南に到着した。既に北にはドレイク軍が布陣している。
「来たか」
ウィル=ウィプスもいた。そしてドレイクも。
「ビショット殿とショットはどうしているか」
「もうすぐ戦場に到着されるとのことです」
「そうか。今回は遅れぬだろうな」
「それは御二方もよくわかっておられるかと」
「左様か。ならばよい」
ドレイクはそれを聞いて頷いた。
「ではまずはアレン=ブレディとフェイ=チェンカに伝えよ」
「はっ」
「先陣は任せたと。そして黒騎士だが」
「どうされますか?」
「今は留まるように言え。時が来れば動いてもらう」
「わかりました」
「ではここで雌雄を決する」
重々しい声で言った。
「正念場と心得よ。よいな」
「はっ」
まずはドレイク軍が動いた。これまでにない数のオーラバトラーが南下する。これに対してロンド=ベルは陸と空に分かれて陣を敷いていた。
「連携は上手くやれよ」
バニングが前線の指揮にあたっていた。
「敵はすばしっこいからな」
「それにかなりの数ですしね」
「それだけ本気だということだ」
バニングはキースにこう返した。
「ウラキ、御前が頼りだ」
「はい」
「デンドロビウムの力、見せてやれよ」
「わかりました」
「左右からも敵が近付いています」
メグミが報告する。
「そちらにもマシンを向けましょう」
「それじゃあ左はブレンパワード」
「はい」
ユリカの指示が下る。
「右はバルキリーで。お願いできますね」
「わかりました」
「この二つを軸に敵にあたります」
「夕暮れになってきている。夜になる前に決められるか」
「さて、それはどうでしょう」
シナプスにパサロフが応えた。
「敵も正念場ですしね」
「難しいか」
「我々次第ですね、そこも」
「どれだけ戦えるかか」
「はい。今来ましたよ」
「よし、主砲を向けよ」
ドレイク軍のオーラバトラーがやって来た。シナプスはそれを見て攻撃用意に入らせる。
「外すなよ」
「はい」
「撃て!」
これが開戦の合図となった。ロンド=ベルとドレイク軍の決戦が幕を開けたのであった。
いきなり両軍は正面からの衝突となった。ドレイク軍のオーラバトラー達が剣を抜いて襲い掛かる。
「落ち着いて照準を合わせろ!」
バニングは彼等を前にして叫ぶ。
「敵の素早さに惑わされるな!」
「了解!」
皆それに頷く。そして攻撃に入る。
ビームがバリアに叩きつけられる。そしてそのバリアを貫き一撃のともに撃墜する。
「う、うわああっ!」
撃墜されたドレイク軍のパイロットが慌てて脱出する。そしてその後ろの編隊にさらに攻撃が加えられる。
「これでっ!」
エマのスーパーガンダムがミサイルを一斉に放つ。それで敵をまとめて屠った。
「ふむ」
ドレイクはそんなロンド=ベルの戦いぶりを見て悠然とした物腰で口を開いた。
「敵ながら。まことに見事だ」
「はい」
「あの者達のうちの何人かが我が配下であったならばな。覇業は容易かったか」
「申し訳ありません、我等が至らなかったばかりに」
「よい。そなた等は己の領域の中では十二分に優秀である。それでよい」
「勿体なき御言葉」
「思えば我等がここに再び来たのは運命であったのであろう」
「運命」
「そうだ。私が覇業を為せる者か為せぬ者か、神が見極める為にな」
「そうなのでしょうか」
「今それをはっきりとさせる。だからこそ退かぬ」
「はい」
「私に今まで共にいてくれる者達に対して言おう」
ドレイクは言った。
「我が覇業はそなた等と共にある!今こそそれを手に入れるのだ!」
「おーーーーーーーーっ!」
「ドレイク様万歳!」
「今こそ我等の手に勝利を!」
ドレイク軍の士気があがった。見事な戦意の鼓舞であった。
「ドレイクもやりますね」
シーラはそんなドレイク軍を見据えて言った。
「道を誤らなければ。よき男であったものを」
「それがあのドレイクという男の運命だったのでしょう」
それにカワッセが応えた。
「運命ですか」
「はい。何かよからぬものに影響され。道を誤ったかと」
「そのよからぬものの正体がわかろうとしています」
「といいますと?」
「今それがここにやって来ます」
シーラは言う。
「このうえない邪で肥大化したオーラ力が。今戦場に」
ビショットとショットの軍が今戦場に到着した。その中には当然ながらゲア=ガリングもあった。
「ドレイク閣下、只今到着致しました」
ビショットがドレイクに通信を入れる。
「ビショット殿、わかっておろうな」
「はい」
「ここで決める。あの時申したように」
「畏まりました。では」
「貴殿等の健闘を祈る」
「はっ」
そしてモニターが消えた。ビショットは苦い顔で艦橋に立っていた。
「ここで全てが決まるというのか」
彼はそれに恐れを抱いていたのだ。
「若しここで何かあれば」
「何を恐れておられるのですか」
だがそんな彼にルーザが声をかけてきた。
「ルーザ殿」
「ビショット様、これはまたとない好機なのですよ」
「好機なのですか」
「はい。ここでドレイクとショットが死に、貴方様が勝たれればそれで我等の覇業は成ります」
「確かに」
「そういうことです。それでどうして恐れることがありましょうか」
「それでは怖気付く必要はないのですね」
「そうです。さあ、早く全軍に攻撃命令を」
「わかりました。それでは」
ビショットはそれに応えた。
「赤い三騎士は前に」
配下の軍に命令を出す。
「そしてその後に全軍続け。よいな」
「御意」
「畏まりましたビショット様」
「これでよいのですね」
「はい」
ルーザは動きはじめたビショットの軍を見て満足そうに頷いた。
「では行かれよ。覇業に」
「はい」
ビショットは頷いた。そして指揮を執る為その顔を前に向ける。だが彼はこの時気付いてはいなかった。彼の後ろで邪悪なオーラが増大していっているのを。
(これでよし)
ルーザはゾッとするような凄みのある笑みで戦場を見据えていた。
(全ては私のものに)
彼女もまた野心を抱いていたのだ。それもドレイク達のそれよりも遥かに大きく、邪なものを。今彼女はそれを際限なく増大させていっていた。そしてそれはロンド=ベルの者の何人かも気付いた。
「何なの、この嫌な感じ」
ヒメがそれに気付いた。
「あの蝶ちょみたいな戦艦から出ているよ」
「確かに」
勇にもそれがわかった。
「これは・・・・・・ジョナサン=グレーンのものともまた違う感じだ」
「しかもとってもドス黒くて。嫌な感じ」
「来ましたね」
シーラもそれを感じていた。その表情を暗くさせている。
「この悪しきオーラこそが。バイストンウェルの全ての災厄の中心でした」
「はい」
モニターにエレが現われた。そしてシーラの言葉に頷く。
「もう一つ。心を暴走させようとしている者がいますが」
「それよりも。遥かに邪悪なオーラです」
「その正体は一体」
「あれです」
ショウに指し示した。
「あのゲア=ガリングから。全ては発せられています」
「このオーラ、まさか」
「お母様」
リムルが突如として言った。
「リムル!?」
「間違いない、このオーラは」
リムルにはわかったのだ。
「お母様のオーラ。そして全ての元凶は」
「まさか。そんなことが」
これにはニーも驚きを隠せなかった。
「ルーザ=ルフトはバイストンウェルに残っていたんじゃないのか。それがどうして」
「残っていなかったとしたらどうかしら」
それにマーベルが応えた。
「彼女も。野心を持っていて」
「そんなことは」
「いえ、有り得るわ」
キーンがここで言った。
「ルーザも。決していい女ではなかったから。若しかしたらビショットと」
「何てことだ」
ニーはそれを聞いて思わず吐き棄てた。
「自らの欲望の為に夫を裏切るのか」
「それが女ってやつの醜い一面だよ」
そんな彼にレッシィが言う。
「女ってのはね、目的の為には手段を選ばないんだ」
「そしてルーザも」
「そうさ。だから怖いんだ、女ってのは」
「クッ」
「それよりもニー、早く行きな」
「えっ!?」
「リムルの奴が。危ないよ」
「クッ、しまった!」
見ればリムルのビアレスはゲア=ガリングに単機突入していた。
「あの娘でも。戦艦相手だと辛いよ」
「わかった!今行く!」
ニーはレプラカーンを駆った。そして前に出る。
「リムル!焦るな!」
彼は叫んだ。
「俺が今行く!それまでは!」
リムルはその間にも突進する。左右から来るビショットの軍勢を切り伏せゲア=ガリングに向かっていた。
「お母様がこの災厄の元凶なら」
彼女は敵を倒しながら呟いている。
「私が!その根源を絶つ!」
そして遂にゲア=ガリングの前まで辿り着いた。そして問う。
「お母様!そこにいるのでしょう!」
「何っ!?」
「まさかこの悪しきオーラ力は」
ショットとドレイクはそれを聞き遂に気付いた。
「ルーザ=ルフトが。まさか」
「まさかとは思っていたが」
二人も真相を見ようとしていた。
「そして!野心を!」
「クッ、勘のいい小娘だ」
ルーザはそれを聞いて一言呻いた。
「なら!私がこの手で!」
「お待ちなさい、ルーザ」
そしてゲア=ガリングから声がした。
「貴女は。何を考えているのです?」
「何をって」
言うまでもないことであった。
「私がこの手で!全ての元凶を絶つことを!」
「馬鹿なことを」
ルーザはそれを聞いて言った。
「子が親を討つなどと」
「何を今更!」
「それは出来ないことです。親が子を殺せないように」
「親が」
この言葉を聞いて気が緩んだ。そしてルーザが抱く悪しきオーラが増大していることにも気付かなかった。
「まずいぜ、ありゃ」
トッドがそれを見て言った。
「リムルの奴、どうしちまったんだ。あのおばさんのオーラが自分に向けられているってのによ」
「甘言に惑わされている」
ショウにはそれがわかった。
「リムル!落ち着け!」
そして彼女に向かって叫んだ。
「ルーザは御前を!」
「よく聞きなさい、リムル」
ルーザは母親の仮面を被って彼女に言う。
「貴女は私が腹を痛めて産んだ娘なのですよ」
「それは」
「わかっている筈です。その様な娘が愛しくない筈がないではないですか」
「ヘドが出そうだ」
邪悪なオーラをナンガも感じていた。
「ここまでとんでもない気は感じたことがない」
「ああ」
ラッセがそれに頷く。
「まるで人間の。最も醜い部分を増幅させたみたいだな」
しかしリムルはそれに気付いてはいなかった。その邪悪なドス黒いオーラが彼女を覆おうとしていることにも。
「聞いていますか、ルーザ」
「はい・・・・・・」
「リムルは頷いた」
「貴女は私の可愛い娘。そう」
ゲア=ガリングの艦橋でルーザはゆっくりと動いていた。射撃用の椅子に向かって。
「役に立つ駒としてなら!」
「!!」
殺気がリムルを襲った。
「役に立たぬ駒なぞ、いらぬ!」
「チィッ!」
ニーが向かおうとする。だが間に合いそうにもない。オーラバルカンがリムルのビアレスを襲う。
「死ね!役立たずの娘よ!」
だがそこに何とかニーのレプラカーンが追いついた。彼はリムルのビアレスを後ろから掴むと一気に上に引き上げたのであった。
「なっ!?」
「間に合ったか!」
「えっ、ニー」
リムルはようやくここで我に返った。
「どうして、どうしてここに」
「悪しきオーラに惑わされるな、リムル!」
ニーは我に返ったリムルに対して叫んだ。
「あの女は、ルーザは御前を娘なんて思っちゃいない!駒としか思っていないんだ!」
「駒・・・・・・」
「そうだ!あの女にとって御前は敵の駒だ!それを消すことなんてどうということはないということだ!」
「そんな、お父様でさえ」
「実の娘まで手にかけようとするか」
ドレイクはそんなルーザを見て呟いた。
「それ程までの悪しきオーラ力を持っていたとはな」
「これでわかっただろう、リムル!」
「お母様、お母様は私を」
「チッ、ガキが・・・・・・」
ルーザはそのおぞましい本性を顔に露わにしていた。
「仕留めそこなったか」
「こうなってはもう」
リムルの心を怒りが包んでいく。
「私が!私がお母様、いえルーザ=ルフトを!」
「クッ!」
「いかん、ゲア=ガリング下がれ!」
ここで咄嗟にビショットが指示を下した。
「ビショット様、どうして!?」
「今はあのオーラバトラーを振り切るのです!待機させてあるオーラバトラーを全て出せ!」
ルーザに構わず続け様に指示を出す。
「その間に距離を置け!よいな!」
「は、はい!」
家臣達もそれに頷く。こうしてありったけのオーラバトラーを出しゲア=ガリングはリムルのビアレスと距離を置くのであった。
「リムル、助かったか」
「一瞬どうなるかと思っちゃったよね」
ショウもチャムも胸を撫で下ろしていた。
一瞬であるが両軍の動きに隙が出来た。そしてそれに気付く男もいた。
「思いも寄らぬ出来事だったが」
ショットであった。その狡猾な目が光った。
「今が好機か。ミュージィ」
「はい」
スプリガンのモニターにミュージィが姿を現わした。
「今だ、やるがいい」
「わかりました。それでは」
「いいか、この一瞬にかける」
ショットの顔は何時になく真剣なものであった。
「行け」
「はい」
それだけであった。ミュージィのブブリィが一直線に動いた。
それに気付いた者はいなかった。たった一人を除いて。
「あれは・・・・・・まさか」
黒騎士だけであった。彼はミュージィのブブリィがウィル=ウィプスに向かっているのを見た。
「これでショット様の望みが」
適うのだと思っていた。彼女は一直線にウィル=ウィプスの艦橋を目指していた。
もうすぐであった。もうすぐで射程内に入るところであった。だがその前に黒騎士のガラバが前に出た。
「!?」
「何処へ行くつもりだ、ミュージィ=ポー」
黒騎士は彼女に問うた。
「私はドレイク閣下を御守りする為に」
「嘘をつけ」
だが彼はそれを見抜いていた。
「そのオーラ、殺気が篭もっているぞ」
「クッ」
「貴殿、閣下を暗殺するつもりだった。違うか」
「・・・・・・・・・」
沈黙してしまった。これは肯定の沈黙になってしまった。
「そしてそれはショット=ウェポンの差し金だ」
「・・・・・・・・・」
やはり何も言えなかった。全て真実であったからだ。
「閣下、以上のようです」
「でかした、黒騎士よ」
ドレイクもこのやりとりを聞いていた。そのうえで黒騎士をねぎらうのであった。
「この功績おって褒美をとらそう」
「有り難き御言葉。そしてこの者は」
「よい」
だがドレイクはミュージィ、そしてショットを不問に処すことにした。
「何もなかった。それでよいな」
「はっ」
ドレイクが言うからにはそれが真実であった。黒騎士も頷くしかなかった。
「ミュージィ=ポーよ」
「はい」
「何もなかったのだぞ」
「御意」
頭を垂れるしかなかった。
「ビショット殿も距離を置いている。一時態勢を立て直すぞ」
「はっ」
黒騎士と家臣達がそれに頷く。
「再攻撃は二時間後とする。それまで攻撃を控える。よいな」
「御意」
ドレイク軍は一時戦闘を停止した。そして安全圏まで下がりドレイクの言葉通り態勢を立て直しはじめたのであった。
それはロンド=ベルも見ていた。彼等はそれを受けて自分達も仕切り直しにかかった。
「それにしても驚いたな」
リュウセイは一時帰艦し補給を受けていた。そこで同じく帰艦していたアラドに対して言った。
「まさか。自分の娘を手にかけようとするなんてな」
「ああ、あれにはびっくりしたぜ」
アラドもそれに同意であった。
「俺は親の顔はよく知らないんだけれどな」
「ああ、そうだったか」
アラドはゼオラと同じく孤児である。そしてスクールで育っているのだ。
「あのとんでもねえオーラにはな。正直腰が抜けそうになったぜ」
「あの気、ユーゼスのそれ並だったな」
「前のバルマーの副司令官だよな」
「ああ。あの時を思い出しちまった」
リュウセイも流石に明るい顔ではなかった。
「しかも野心の為だけにな。リムルを殺そうとするなんて」
「あれが人の親だなんてね」
アヤもやって来た。
「信じたくはないわね」
「だが。そんな親もいるんだ」
勇がそんな彼等に対して言った。
「色んな親がいるからな」
「そんなもんか」
「ああ。俺の家族だって。他人だったさ」
アラドに応えるその言葉は沈んだものだった。
「ジョナサンだって。ぬくもりを知らなかったしな」
「あいつもそうした意味で可哀想な奴なんだな」
「そうだな。そしてリムルも」
リュウセイに応える形で言った。
「悪い親を持つとな。それだけで不幸なものさ」
「けれど今の勇は」
「わかってるよ」
ヒメに顔を向ける。
「俺には祖母ちゃんもいるし」
「うん」
「それにな。色々と見えてきたから」
「勇も変わったんだ」
「ヒメのせいでね。ところでリムルは?」
「ああ、かなり落ち着いているそうだ」
霧生がそれに答えた。
「最初はえらく興奮していたけどな。ニーやキーンのおかげで」
「そうか。ならいい」
「またすぐに戦いだぜ。準備はいいな」
「ああ」
「今度の戦いは夜になるな。夜の決戦だ」
ダブリンの日は暮れた。妖精の国を夜が包む。その中両軍は最後の戦いに向かおうとしていた。
「御館様」
家臣の一人がウィル=ウィプスの艦橋にいるドレイクに声をかけてきた。
「どうした」
「ショットの件、宜しいのですか」
「よい、これは借りにしておく」
「借りに」
「そうだ。不問に処すかわりに次の戦いでは真面目にやってもらう。それでよいのだ」
「左様ですか」
「ビショットについでもだ」
ドレイクはビショットに関しても言及してきた。
「借りにしておく。その分を戦ってもらう」
「わかりました」
「そなた等も備えておけ。よいな」
「はっ」
そこまで言って彼は一先自室に戻った。そして椅子に深々と座りながら一人呟いていた。
「全ての元凶はルーザだったというのか」
ビショットやショット達はまだ許せた。その野心も知っていたからだ。そのうえで利用していたのであるからこれは当然と
言えば当然のことであった。
「この戦乱の。全てのもとは」
彼女の野心で、そして邪なオーラであったのだ。ドレイクも今それに気付いた。
「許せぬ」
彼は呟いた。
「いずれボッブ=レスの最下層、ノムに叩き落しその悪鬼共の餌にしてくれる」
裏切られた夫の念であろうか。それとも利用されていたことに対する怒りか。どちらにしろ普段は感情を露わにしない彼の何時にない激しい怒りであった。そしてそれは戦場に向けられようとしていたのであった。夜になろうとしていた。そして戦いは最後の局面を迎えようとしていたのであった。

第八十八話完

2006・4・24  
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