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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第6話 さあ訓練だ!でもまず道具だ!!

 こんにちは。ギルバートです。無能な敵に助けられた形で、命拾いする事が出来ました。お陰さまで少しの間平穏な生活が送れそうです。

 色々な意味で大変な裁判でしたが、アホ貴族のおかげで敵側の人間をある程度絞り込む事が出来ました。そう最後まで「ドリュアス領に、査察団を送るべき」と、主張していた者達が居たのです。

 ……それは、高等法院の関係者でした。ペドロを王宮に紹介した貴族の大半が、高等法院の息がかかった貴族でした。ここまで来れば、もう間違いないでしょう。

 しかし相手が判明したとは言っても、証拠をつかんだ訳では無いです。これから少しずつ少しずつ証拠を集めていき、言い逃れできない所で捕まえるしかありません。その事実に「まだまだ時間がかかりそうだ」と、父上がぼやいていました。母上はそんな父上を、優しくねぎらっていました。

(あんまり人の前で、ラブラブ空間創らないでほしいです)



 そして私は3歳になりました。そろそろ訓練メニューを、増やして行きたいと思います。

 今までは、ウォーキング・ランニング・柔軟等の軽い運動を行って来ましたが、いよいよ剣を振るトレーニングを始めたいと思います。(……長かった。本当に長かったです)マギは、小太刀二刀使いでした。加えて、大太刀(野太刀)と匕首も良く使います。これらを状況に合わせて持ち替え、相手を撹乱しながら必殺の一撃を決めるのがスタイルでした。しかしそれは、マギの完成されたスタイルではありません。

 マギには剣の師匠が、三人も居ました。一人は、小太刀二刀による変幻自在な攻めを得意とする者。もう一人は、大太刀で剣の結界を創り僅かな隙を狙った者を匕首で狩る者。二人とも良い師であり兄弟子でした。

 そしてマギを含めたこの三人に、剣術を教える共通の師と呼べる人は居ました。師はあらゆる型を使いこなしていましたが、特に変則二刀と居合術を得意とする人でした。マギが憧れ目指したのは、この人のスタイルです。

 しかし、師であり目標である人が早くに亡くなり、マギは両親の死去と言う家庭の事情も重なり剣の道を諦める決断をします。その際二人の兄弟子は、惜しみながらもマギの決断を支持してくれました。

 ですが、マギは剣術に未練があったのでしょう。マギは落ち着きたい時に、よく木刀で素振りをしていました。もしかするとマギは、天性の剣士だったのかもしれません。マギが多趣味だったのも、剣に代わる物を探していたからなのでしょうか?

 おっと、話が逸れてしまいました。剣の稽古の話でしたね。ここはやはり木刀でしょうか。木製の軽い物なら体に余計な負担をかけずに済みますし、体格に合わせて長さと重さを変えて行けば良いでしょう。

 そうと決まれば、先ず木刀を作らねばなりません。……材料は手頃な物が、薪用の木材に幾つか有ります。後はこの木材を削る為の小刀か何かあれば、……って無いですね。冷静に考えれば、3歳児の手の届く範囲に刃物をおく訳が無いのです。魔法が使えれば《錬金》で一発なのですが、と言っても無い物ねだりしても意味が無いですね。……探すか人に聞くしかありません。



 最初に見つけたのは、メイド長(アンナ)とミーアです。この二人の直ぐ近くに、流民生活中に天涯孤独となり家で引き取ったディーネ(4歳)が居ました。何をしているのか気になってみてみると、アンナがミーアにお説教をしています。それをディーネが、オロオロしながら見ていました。

(今度は何が有ったのでしょうか?)

 少し近づいて、お説教の内容を聞き取ってみると、どうも私の事が関係しているらしいです。まあ察するに、ミーアがディーネに私が如何に変な子供かを力説し、そこにアンナ登場→お説教。と言う、いつものパターンの様です。このまま放っておいても良いのですが、それではこちらの要件が済ませられません。お説教に割って入り、話しかけてみる事にしました。

「どーしたの?」

 とりあえず、年相応の態度で話しかけてみます。

「ああ、ギルバート坊ちゃん。なんでもありませんよ。なんでも……」

 明らかにアンナは何か誤魔化しています。アンナは明らかにミーアをかばってますね。バレバレですが。視界の端の方で、ミーアがこちらを睨んでいるのが見えます。

(うん。全然怖くないです)

 大型犬相手に猫が威嚇しているみたいです。必死に怖い顔をしようとして居るのでしょうが、目に涙ためながらなので、今にも泣きそうで全然怖くありません。

 今のミーア見てると、やたら嗜虐心が刺激されます。良かったですね、私にそういう趣味が無くて……。

 何だかんだ言って、アンナは優しいから問題ないでしょう。今は自分の用件を優先させていただきます。

「ナイフ欲しい。……ある?」

 三人の動きが、ピタリと止まりました。

(……あっ!? 良く考えみたら、3歳児にナイフ欲しいって言われて、はいそうですかって渡す人は居ません。如何しましょう?)

 私が内心焦っていると、アンナとミーアより早く再起動したディーネが話しかけて来ました。

「ナイフは危ないよ?」

「うん。そーだね。あきらめる」

 これ以上言及される前に、さっさと撤退する事にしました。

 ……撤退成功。



 ここは素直に、母上に「木刀が欲しい」とねだるべきでした。しかし木刀とは言え“母上に剣をねだる”のは、もの凄く嫌な予感がします。いえ、守備隊の件を考えると、如何なるかなど嫌でも分かります。

 ……まあ、地雷臭しかしませんが何とかなる筈です。いくら母上でも、3歳児を虐待しようとは思わないでしょう。……タブン。

 無理やりポジティブに考えるようにした私は、母上を探す為移動を開始しました。今日は守備隊の訓練も、何処かへの訪問予定も無かった筈なので、執務室か寝室もしくはテラスを探せば見つかる筈です。

 先ずは執務室です。早速ノックします。

「コラ~。ギルバートちゃん、悪戯しちゃだめよ~」

 “来客中。後にしろ”の返事(暗号)が、返ってきました。ちなみに「ギルバートちゃん、遊んでほしいの~」が、来客中だけど入って来なさいの暗号です。

 母上と私の間で、ノックのたたき方を以前から決めてありました。その為母上は、すぐに私だと気付いたのです。万が一の為に、ノック位置も聞き分けています。だてに風のスクウェアではないのです。

 まあ屋敷の人間ならともかく、外部の人間に私の事を知られる訳には行かないですから。

 執務室から離れ、ウォーキングで時間を潰していると、来客が終わった様です。私は再び執務室に行きノックをしました。

「入りなさい」

 私は執務室に入ります。

「如何したの?」

「実は、そろそろ剣を振る練習を始めようと思います。それで……」

 母上の顔が一瞬フラットな表情になりました。しかし次の瞬間には、満面の笑顔へと変わります。

「木剣が欲しいの?」

「いえ、少し形が違う木刀という物が欲しいのです。それも、サイズの違う物を複数です」

 母上は興味津津といった感じで、木刀の形状を聞いて来ます。

 一方で私の頭の中では、アラートがけたたましく鳴っていました。

「私がすぐに作ってあげるわ」

 拙い!! このままでは、特訓という名の虐待が……。

「いえ、小刀かナイフを貸していただければ自作します。その方が、微調整も効きますので……」

 なんとか断ろうと言い繕いましたが、無理だった様です。

「なら、そばで見ててあげる。終わったら、稽古付けてあげるわ」

「しかし、剣を振れるようになる為の物ですから。いきなり、振り回すのは怪我の元だと思いますヨ」

「大丈夫。ちゃんと手加減するから。それとも、私と訓練したくないの?」

 笑顔に殺気がこもりました。怖くてつい「お願いします」と、言ってしまいました。

(私のバカ。終わりです。……まあ、命を取られる訳ではないので諦めが肝心ですね)

 と、それより気になる事があります。

「ところで、先程の来客は誰だったのですか?」

「元同僚よ。私が抜けた所為で、大変だって愚痴って行ったわ。……それと敵の黒幕だけど、今のままじゃ逮捕は難しいそうよ。証拠が少なすぎて、なにか新しいアクションでも起こしてくれないと、証拠をそろえるのは無理だって言ってたわ」

 母上の表情が、悔しそうに歪みました。

「互いにそれが分かっているから、相手もしばらく動かない。と、言う事ですか?」

 私の質問に、母上は無言のまま頷きました。



 それから、二日が経ちました。ようやく木刀が完成したので、試しに木刀大太刀を振ってみます。

 ……ブォ~~~ン

 ……ブォ~~~ン

 私からすると、この音は絶望的な気分にさせられる物なのですが、母上は物凄い笑顔でこちらを見ています。まるで玩具を与えられた子供の目です。

 ためしに、木刀大太刀から木刀小太刀二刀に持ち替え、型を一つやってみます。

 ……ブォ~~~ン ブォ~~~ン

 ……ブォ~~~ン ブォ~~~ン

 つるっ……ゴン。

 転んでぶつけた痛みは大した事ありませんでしたが、正直これはショックです。本当に冗談抜きで涙が出そうです。

「もう、まだ体は3歳なんだから、無理しちゃだめよ~」

 母上の優しい言葉が、今の私には辛いです。でも、これで稽古が無くなるかも。……ラッキーなのか?

「私が特訓してあげるから、泣かないの」

 すみません。私が甘かった様です。



 それから暫くして、私はようやく解放されました。二度と母上の前で剣の訓練はしまい。と、心にかたく誓いましたが、冷静に考えると無理である事が分かりました。母上が今更私を手放すとは思えません。とりあえず3歳だから無理するな発言は、私の気のせいだったようです。

(母上の、ドS……)

 母上が入って行った館の入り口を見ながら、心の中で愚痴りました。

「ギルバートちゃん、なんか言った?」

(ッ!? 何時の間に!! さっき館に入って行った筈ですよね!?)

 振り返ると私の背後に母上がいました。バクバク言っている心臓を必死に落ち着かせます。

「いえ、母上なんでもありません」

「そう?明日も一緒に特訓しましょうね」

 あっ……。目から水が……。



 あれから毎日の様に。母上の特訓が続いています。ハッキリ言って辛いです。このまま無理を続けると、某黒いシスコン二刀剣士の二の舞になりそうです。あっちは追い詰められて自発的ですが(あれ? 誰かに砕かれたような気も)こっちは強制です。冗談抜きで、本当に勘弁してください。……本気で泣きそうです。

 しかし何だかんだ言って、母上の特訓を耐えている自分が恨めしい。唯一の救いは、まだ実戦形式の模擬戦が無い事でしょうか?

 以前に守備隊から聞きましたが、母上は実戦形式の模擬戦で大暴れした事があるそうです。その時はボコボコにされて、二日も目を覚まさなかった隊員が居たと聞きました。私にその話をしてくれた人は「水メイジが居なかったら、どうなっていたか……」と口にしながら、ガタガタ震えていました。

(……あな恐ろしや)

 とりあえず妹が大きくなって、剣術をやらせれば私の負担が減るかな? 等と、外道な事を考えてしまう私は悪く無いと思いたいです。

 結局母上は、私を鍛える(なぶる)のが楽しくて仕様がない様なので、それを何とかしなければなりません。しかし対策が全く思いつきません。

(いっそ、家出でもしてみますか?)

 いえ……、これはこれで危険です。それにそんな不義は絶対に出来ません。父上と母上はこの世界で、真の意味で私を受け入れてくれた人なのですから。まあ、結局我慢しろ……と言う訳ですね。



 そんな辛い日々を続ける私にとって、年の近いディーネが世話を焼いてくれるのはとても助かりました。この時の私にとって、唯一の心のオアシスと言って良かったでしょう。何が良いって、無理してお姉さんぶる所が可愛いのです。そんなディーネと仲良くなるのに、多くの時間は必要ありませんでした。

 始めて会った時は、薄汚れていて髪はボサボサでボロボロの服の所為か、男か女かも良く分からない状態でした。それが今では、髪は綺麗な金髪のストレートで、目は澄んだ碧眼をしています。うん。顔立ちも整ってますし将来美人になりますね。

 こうなると私とディーネが一緒に遊ぶのは、必然と言って良いでしょう。どちらが面倒を見て居るかは、ディーネの為に言及しません。この前ねだられて、おままごとをさせられましたし。恥ずかしかったのですが、我慢してやり切りました。

 しかし私は知っている。ミーアが影から覗き、密に笑っていたのを……。

(……フフッ……オボエテロヨ……オバサン)注 ミーアは現在二十歳です。

 おっと、いけないけない。精神は肉体に引っ張られると言った人が居ましたが、最近私の思考回路が、子供っぽくなって来た様な気がします。……注意せねば。

 それよりも、あまり良くない事が分かりました。それはディーネの血筋です。

 本人曰く「お爺ちゃんのお爺ちゃんのお婆ちゃんは、とっても偉い貴族様と愛し合ってたんだって。でも、しがらみってゆーのがあって結婚できなかったんだって」

 私もその言葉を鵜呑みにする心算はありませんでしたが、ディーネの持ち物(親の形見)に見過ごせない物を発見してしまいました。それは、家紋付きの指輪とオルゴールです。オルゴールの蓋の裏に、小さく文字が彫ってありました。

  祝福できぬ愛しい我が子にこれを贈る。
    許されるなら健やかに育つ事をここに祈る

 つまり、平民の娘と恋仲になり子供を作ったあげく、周りに許してもらえず家から追い出した? いや、追い出されてしまった。……と言う訳ですね。

 次に、指輪の家紋を見ます。

 えーと……。モンモランシ家の家紋ですね。見なかった事に出来ないでしょうか?

 この事実に困り果てた私は、母上に相談する事にしました。

「いいんじゃない。家はそう言うの気にしないし。いっその事、養子にでもしちゃおうか?」

 テキトー過ぎます!! 母上!!



 それから暫くして、父上が帰ってくると養子の話はトントン拍子に進み、ディーネがメイジである事が確認されると正式に決定してしまいました。

(大丈夫か? この家)

 私は本気で心配になってしまいました。しかし父上と母上が話を立ち聞きしてしまい、そんな考えを改める事にしました。

「あの子、……ディーネだけど。幸せになれると良いわね」

「ああ。ディーネは、私達が進むかもしれなかった未来の形だ。幸せになってもらいたい」

 父上と母上の境遇を思い出し、私は自分が恥ずかしくなりました。また、二人の度量の大きさと心の在り様に、私は尊敬の念さえ抱きました。そして、そこに自分も救われている事に気づき、改めて感謝しました。



 さて、今日も地獄の時間がやって来ました。あれ? 母上の横に、何故かディーネが居ます。

「今日から一緒に訓練します」

 ディーネが胸を張って、元気に宣言してくれました。私は思わず母上を見ましたが、とても良い笑顔です。

「さあ、始めましょうか。先ず最初に、柔軟とランニングからね~」

 ディーネは身体は柔軟で、180度開脚を軽々とやってのけました。意外にも体力も有り、私と同じ距離を平気な顔で走り切りました。正直に言って驚きです。

「次は素振りね。ディーネちゃんはこれを……」

 母上が細い木剣を取り出したろ所で、ディーネが私から木刀小太刀を一本ひったくりました。そして木刀小太刀を振り始めます。不格好ながら振り方は間違っていません。恐らく私が木刀を振っているのを、どこかで見ていたのでしょう。

「ディーネちゃん。それはギルバートちゃんのだから、こっち使いましょうね~」

「別に良いよ……。まだ予備も有るし」

 その時母上が、一瞬怖い顔をしました。何故でしょうか? 私は何も悪い事をしていないはずなのですが。すると母上は、自身の持っている木剣を、やたらとディーネに勧めます。

(ああ。そう言う事ですか)

 私は合点が行きました。私の剣術は“日本刀”と言う、ハルケギニアでは特殊な形をした武器(カタナ)を使います。つまり母上にとって私の剣術は門外漢であり、教える事が出来ないのです。その事に寂しさを感じて居た母上は、ディーネに自分の知る剣術を教えたいと考えたのでしょう。ここでディーネが日本刀を使ったら、自分だけ仲間外れになるとでも思ったのでしょうか?

 母上は“自分の武器であるレイピアの利点”について、ディーネに説いて行きます。しかしディーネは、納得しませんでした。なおも説得しようとする母上に、ディーネは何故剣を習いたいか話し始めます。

 父親の顔を一度も見た事が無い事。唯一の肉親である母親が、亜人に殺されてしまった事。もう自分のような想いをする人を作りたくない事。また家族を無くすのは嫌だと……。

 そしてディーネは「だから、亜人と戦う為の剣を習いたい」と言い切りました。そして「だから武器も、対亜人戦に向いた物を使いたい」と、言ったのです。

 残念ながらレイピアは、対人戦それも1対1の個人戦に向いた武器です。一方で対亜人戦を考えると、レイピアはとてもお勧め出来る武器ではありません。亜人戦は対複数が基本なのです。更に言えば突きの一発程度では、亜人を仕留める事が出来ません。むしろ抜けなくなれば、あっという間に丸腰です。

 こうなってしまえば、母上も折れるしかありません。

(これは間違い無く、事前に誰かに話を聞いていますね。老執事(オーギュスト)あたりでしょうか?)

 しかし諦めきれないのか、母上は尚も食い下がります。

「なら他に対亜人向きで、ディーネちゃんに向いた武器を探しましょう。……ね……ね」

(母上も必死ですね。おー、ディーネも困ってる困ってる。母上も大人げないです)

「そうだ! ギルバートちゃんが使っている武器の特徴は?」

 あれ? 矛先がこちらに向きました。まあ、嘘を吐く理由は無いですね。でも、いきなり全部の説明は無理です。……とりあえず要約して、簡単に説明するしかないですね。

「日本刀。片刃で独特の反りと薄さ軽さが特徴で、切って良し・突いて良し・打って良しの優良な武器。特に切る事に特化していて、一流の日本刀と使い手がそろうと鉄さえも切り裂く。ただし使用者に高い熟練度が求められ、未熟な者が使うとすぐに刃がダメになったり折れたり曲がったりしてしまう。《固定化》や《硬化》を使えば多少は改善出来るだろうが、亜人戦にはとてもお勧めできない。もちろん、それを覆す技量が有れば話は別だが……」

 ここまで説明して、ディーネがキョトンとしているのに気が付きました。

(あっ……ヤバ……まあ、いっか)

「ディーネちゃん。ギルバートちゃんったら、こういう変わった子なのよ。どう思う?」

「えっ……いや……あの、その……えっと」

 母上は私から「日本刀は、亜人戦に向かない」と言う言葉を、引き出したかっただけなのでしょうが、ディーネの反応が面白くって路線変更しましたね。その所為で、ディーネは絶賛パニック中です。……あぁ、なんか和みます。(注 私は母上と同類じゃなりませんよ)

 母上は良い顔で笑っています。やっぱりドSですね。この人。



 結局、全て(原作知識以外)話させていただきました。正直に言って、拒絶されたら如何しようか心配でした。

 しかし意外にも、すんなり信じ誰にも喋らないと約束してくれたのです。流石に変に思い、理由を聞いてみました。

「神官とロマリア大嫌い!!」

 この一言が返ってきました。お願いだから、危険な発言は控えましょう。

 ちなみに最終的にディーネが選んだ武器は、よりにもよってバスタードソード。そんなマニアックな武器を、何故選んだのでしょうか? 母上はその後、いじけていました。



 そして今日も元気に訓練です。ディーネも実質初日(本当の初日は、準備運動と武器選びで終わってしまった)に弱音を吐いていましたが、なんとか頑張っています。

「お母様、遅いね」

「うん。遅いね」

 既に柔軟と走りこみを終え、軽く素振りを始めていました。いつもなら、嬉々として一番最初に来るのに変ですね。

 それから暫くして、ようやく母上が来ました。しかし服装が、動きやすい訓練着では無く正装です。

「ギルバートちゃん。ディーネちゃん。ごめんなさい。これから、クールーズ領へ行かなければならないの」

「何かあったのですか?」

「クールーズ家の次期当主。アラン・レイ・ド・クールーズが、魔の森の調査中に行方不明になったらしいの」

 クールーズと言えば、ドリュアスの直ぐ西にある領地ですね。

「彼は優秀な貴族だったの。そうね……“魔の森の調査を任される程、優秀な貴族だった”と言えば分かるかしら」

 私は頷きました。魔の森は国の存亡に関わる程の難事です。その解決を任されるとしたら、王の信望も厚く一流の実力を誇っている事になります。一方ディーネは、一人でキョトンとしていました。しかし私にそちらをフォローする余裕はありません。

「彼が居なくなれば、クールーズ家は弱体化するわ」

 ここで私は、ようやく母上の危惧している事が分かりました。母上は私が理解したのを確認すると、足早に去って行きました。

 クールーズ領が弱体化し魔の森に呑まれれば、ドリュアス領は南だけでなく西も警戒しなければいけなくなります。それだけなら、まだ何とかなるだけの体力はドリュアス領にはあります。ですが対応するには、領内の大規模な再編成がどうしても必要になります。それは高等法院にいる奴らに、一時的とは言え無防備な背中をさらすという事です。






「……不味いですね」

 私の口から、思わずそんな言葉が漏れました。

「ねぇ、……なにが不味いの?」

 ディーネは一人だけ置いていかれて、不満そうに首を傾げていました。 
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