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万華鏡

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第十二話 来てくれた人その十


「神社って古い神社とか千年以上だから」
「ああ、奈良とかそうした神社多いわよね」
 今度は彩夏が言ってきた。
「あそこは歴史の場所だから」
「千年以上の神社とか普通にあるわよ」
 景子も彩夏に答える。
「春日大社とかね」
「あの鹿の」
「そう、あそことか」
「あそこも古いのね」
「歴史あるわよ。それでね」
「それで?」
「あそこの鹿は神様の使いなの」 
 それになるというのだ。
「それでかなり大事にされてるけれど」
「あの鹿ってちょっと」
「そうよね」
「知ってるのね」
「子供の頃あそこに行ってね」
 彩夏は苦笑いで景子に答える。
「鹿に頭突きされたのよ」
「何したの?」
「ちょっとお腹突っついたら」
 子供らしい悪戯ではある。
「その後で鹿に背中見せたらね」
「それでなの」
「そう、背中に頭突き受けたの」
「角あったら危なかったわね」
「そうでしょ。あそこの鹿って人間慣れしてるし」
 観光地でしょっちゅう人間の相手をしているからだ。
「しかも神様の使いだから甘やかされてるのよ」
「神社の人達が?」
「いえ、観光客の人達がなの」
「その人達がなの」
「そう、甘やかしてるから」
「奈良の人達じゃないのね」
「奈良の人達は皆あの鹿嫌いらしいのよ」
 景子は父の友人である奈良で神主をしている人から聞いたことを彩夏に話した。奈良であの鹿達はどう思われているかと。
「もう頭にきてるらしいのよ」
「やりたい放題やってるからよね」
「そう。子供のお弁当は奪うし」
 まずはここからだった。
「人が読んでる雑誌は食べるし」
「山羊か羊みたいね」
「同じ草食動物だしね。けれど」
「けれどって?」
「お肉も食べるから」
 そうしたこともするというのだ。
「お弁当のお肉ね」
「それも奪い取ってなの」
「そう、子供のお弁当に」
「かなり性質悪いわね」
「そうよ、かなり悪質だから」
「ううん、だから奈良の人からは嫌われるの」
「奈良県民で好きな人いないらしいわ」
 県民に全く愛されていないマスコットということだ。
「本当に隙を見せたら後ろだから」
「私みたいにしてくれるのね」
「そうなの」
 まさにその通りだというのだ。
「ちょっとからかったらね」
「後ろからなのね」
「横からとか」
「殆どゲリラね」
 彩夏も言う。
「それは嫌われるわね」
「ああ、それな」
 美優が鹿の話を聞いてそこに入って来た。
「奈良だけじゃなくてな」
「広島もよね」
「あっ、景子ちゃんやっぱり知ってるんだな」
「厳島よね」
「そうそう、そこの鹿だよ」
「あそこの鹿も神様の使いで甘やかされてるから」
 事態は奈良と同じだった。
「それでやりたい放題なのよね」
「あたしあんな態度の悪い鹿はじめて見たぜ」
「しかも神様の使いだから」
「奈良もだよな」
「仕返しできないからね」
 やれば色々と言われる。最悪のパラドックスだ。 
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