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八条学園怪異譚

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第四話 ターニングポイントその二


 その彼女にだ。両親はこう言ってきたのだった。
「御前もそんな凄い娘友達に持って鼻が高いだろ」
「お友達が凄いとね」
「どうだ?御前もやってみようって思うだろ」
「もっと頑張ろうって」
「う、うん」
 俯いたままだ。愛実は両親の言葉に頷いた。
「そうね。聖花ちゃん凄いよね」
「だから御前も頑張れよ」
「お勉強も運動もね」
「部活でも一緒だからな」
「頑張りなさいよ」
「ええ」
 顔を上げられなかった。愛実は朝からそうした話を聞いた。
 そして登校するだ。バスに乗ってすぐにだった。
 その聖花が笑顔で来てだ。愛実に挨拶をしてくるのだ。
「おはよう」
「うん、おはよう」
 褒められ憧れられる存在になっている聖花はそのことに気付かない。それでだ。
 愛実に満面の、朝に相応しい笑顔で言っていく。そしてだった。
 その笑顔のままでだ。こうも言ってきたのだった。
「ねえ。昨日だけれどね」
「昨日?」
「お家に帰ってお母さんに言われたの」
「何て言われたの?」
「私もちょっとパンを焼いてみてるけれど」
 パン屋だからだ。そうすることも当然だった。
「そのパンがお客さんに褒められたらしいのよ」
「聖花ちゃんのパンが」
「うん、そうなの」 
 聖花自身は店のことを話すのだった。
「お昼に来たお客さんがね。昨日のパンは凄く美味しかったって」
「聖花ちゃんどんなパンを焼いたの?」
「うん、メロンパンだけれどね」
 焼いたパンはそれだったというのだ。スーパーでもパン屋でもオーソドックスに売られているパンの一つである。
「それが凄くね」
「褒められたのね」
「よかったわ」
 聖花は笑顔で愛実に語る。
「本当にね」
「そうなの。私なんてね」
「愛実ちゃんは?」
「この前。カツ揚げるのに失敗して」
 お店の看板とも言っていいそれを失敗したというのだ。
「それでね」
「おじさんやおばさんに怒られたの?」
「ううん。そうしたことはなかったけれど」
「それでもよかったってことはないのね」
「ええ、そうなの」
 その失敗のことを思い出してだ。愛実は項垂れた顔で言うのだった。
「慰めてもらったけれど。失敗は誰にもあるって」
「それでよかったってことは」
「なかったわ」
 そうだったというのだ。辛い顔での言葉だった。
「失敗したことは事実だから。お料理は失敗したらいけないのに」
「けれどそれは誰にも」
「私のお家食堂だから」
 だからだというのだ。愛実にとっては切実な話だった。
「絶対に失敗したらいけないから」
「けれどやっぱり人間だから」
「これまで失敗したことなかったのよ」
 愛実のプライドだ。それがだ。
「だからね」
「けれどそれでも」
「そういうことにはいかないの」
 プライド故にだ。愛実は言いそして落ち込んでいるのだ。
「私にとっては」
「そうなの」
「本当に。私って」
 いつも傍にいるが故にだった。愛実は自分と聖花を比べてしまった。そしてそのうえでこうも言ったのだった。
「何をしても駄目だから」
「そんなことないわよ」
「私のことは私が一番わかってるから」 
 否定する言葉だった。自分も聖花の言葉も。
「だから。そんなこと言わなくていいから」
「いや、そんな」
「いいから。私が一番わかってるから」
 繭を曇らせて。愛実は自分自身を否定していく。 
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