八条学園怪異譚
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第十六話 柴犬その十
「この農業科で狐さんと狸さん達が悪さしてるらしいですけれど」
「それ本当ですか?」
「悪さというと何だ」
「ですから食堂の揚げを盗み食いしたりとか」
「人を化かしたりとか」
「そういうことしてるらしいですけれど」
「悪戯とかしてるんですよね」
二人は怪訝な顔で日下部に問うた。
「そういうのやっぱりよくないですから」
「ちょっと止めに来ました」
「それでその柴犬か」
日下部はまたチロを見た。その目はあまり好意的な感じではなかった。
それで二人にこう言ったのだった。
「あまりよくないな」
「あっ、そういえば幽霊も犬苦手でしたね」
聖花は日下部の今の言葉でこのことを思い出した。
「そうでしたね」
「その通りだ。私はそうでもないが」
「日下部さんは大丈夫なんですか」
「犬や猫は子供の頃から好きだったし海軍にも自衛隊にも軍用犬がいた」
軍隊には犬は付きものだ。何かと役に立ってくれる生き物なのだ。
「それに家でもいたからな」
「飼い犬いたんですか」
「それで犬には慣れている」
そうだというのだ。
「私は大丈夫だが」
「それでもなんですね」
「基本的に幽霊は犬が苦手だ」
日下部はこのことを二人に話した。
「自分達が見えるし吠えて怯えさせてくるからな」
「ううん、意外な弱点ですね」
「幽霊になると犬が苦手になるんですね」
「人によるがそうだ」
こう言うのだった。日下部は二人にさらに話した。
「狐や狸は特にそうだ」
「狩られるからですね」
「苦手なのは」
「その通りだ。だからその柴犬はな」
日下部はチロを見下ろしながら難しい顔で話す。
「よくはないな」
「けれど悪さしてますから」
「それも当然ですよ」
「そもそも悪戯をしているかどうかも問題だ」
難しい顔で二人に話す。
「化かすのは狐狸の習性だ」
「じゃあ化かしてもいいんですか?」
「そういうことをしても」
「何も問題はない」
妖怪の理論だった。
「それはな」
「ううん、けれど盗み食いは」
「そういうことは」
「それはない」
これはないというのだ。
「確かに彼等は化かす、それでもだ」
「盗み食いはですか」
「それはないんですか」
「何なら聞いてみるといい、本人達にな」
つまり狐狸達に直接聞けというのだ。どうしても気になるのなら。
「そうしてみればどうだ」
「というかそのつもりで来てますし、こっちも」
「望むところっていいますか」
「なら彼等のところに案内しよう。しかしだ」
日下部はまたチロを見て二人に述べる。
「その犬は連れて行くべきではないな」
「やっぱり犬だからですか」
「それでなんですね」
「幾ら小さくても犬は犬だ」
例え柴犬でもだというのだ。
「狐も狸も犬は苦手だ」
「ううん、それじゃあ」
愛実は残念そうな顔を日下部に見せた。それから自分の足元でへっへっへ、と舌を出して尻尾を振るチロを見てから答えた。
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