八条学園怪異譚
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第十六話 柴犬その六
それで愛実は厳しい顔になってこうも言った。
「もしうちで食い逃げなんてしたらね」
「その時はよね」
「死刑よ」
本気の言葉だ。
「その場で虎の餌にするから」
「甲子園球場に連れて行って?」
「そうそう、そうしてやるから」
こう完全に本気の顔で言う。宣言と言ってもいい。
「絶対に許さないから」
「まあ私も万引きとかはね」
パン屋である為商品を店内に置いている、その場合どうしても万引きのリスクがあるのだ。
だがその万引きに対してどうするか、聖花はこう愛実に話す。
「うちの商店街じゃ公開で鞭打ちになるのよ」
「イスラムみたいね」
「それを参考にしたのよ」
「成程、いいわね」
「でしょ?食い逃げとか万引きは許してたら商売が成り立たないから」
だから商店街ぐるみで対応をしているというのだ。
「その場合絶対に許さないから」
「そうよね。犯罪だしね」
「犯罪には断固たる姿勢で挑めってね」
「そうそう、そうしないとね」
「ちょっと。鞭打ちは幾ら何でも冗談でしょ」
先輩は真剣な顔で話す二人に少し苦笑いになって突っ込みを入れた。
「それは嘘でしょ」
「あっ、虎の話も冗談ですから」
「実際はそんなことしませんから」
二人はこのことはちゃんと答える。
「実際は警察に突き出すだけです」
「防犯カメラも置いてます」
「そうよね。それにしても商売も大変よね」
先輩はしみじみとした口調で述べる。
「私の兄貴も今漫画喫茶で働いてるけれどね」
「漫画喫茶ですか」
「そこで働いておられるんですか」
「そう、何でも夜になると結構変なお客さんも多いらしいのよ」
そしてその客達はというと。
「何かやけに顔が細長かったり目の周りが黒かったり」
「細長い?」
「それに目の周りが黒い」
「しかも注文はきつねうどんとか厚揚げとかね」
注文するメニューの話にもなる、
「そういうのばかりだっていうのよ」
「また揚げですか」
「それなんですね」
「そうなのよ。で、こんこんとやたら咳こんでて太鼓を叩く音が聞こえてきて」
先輩は自分の兄から聞いた話を二人に話していく。
「妙に騒がしくなるそうよ」
「ですか。わかりました」
「そういうお客さんもいるんですね」
「そうなの。世の中色々な人がいるけれど」
先輩は二人に話しながら首も傾げる。
「いや、お客さんも怖い人いるから気をつけないとね」
「ですよね、本当に」
「気をつけないといけないですね」
二人はこの場は先輩の言葉に頷いただけだった。だが部活が終わるとすぐに後片付けの中でこの話をした。
愛実は部室の掃除をしながら同じことをしている聖花に尋ねた。二人で畳の床を掃除機で奇麗にしているのだ。
掃除機の音に負けない様にある程度大きな声でこう聖花に尋ねた。
「どう思う?漫画喫茶のお客さんに農業科のお話」
「あと食堂よね」
「全部一緒よね」
「間違いないわよ」
聖花も掃除機をかけながら愛実に答える。
「狐と狸よ」
「絶対にそれよね」
「漫画喫茶で騒ぐのも気になるけれど」
「問題は食堂のことね」
「盗み食いはよくないでしょ」
彼等にしては悪戯に過ぎなくとも食べ物を扱っている家の娘である二人にとっては絶対に見過ごせないことだ。だから二人も言うのだ。
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