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八条学園怪異譚

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第十五話 足元にはその十四


「泉は」
「はい、今回もですし」
「本当に中々見つからないです」
「手掛かり一つ見つからないです」
「泉自体があることはわかりましたけれど」
 あることはわかった、そのことは大きい。
 だがわかったのはそれだけだ、だから二人は今言うのだった。
「何ていいますか」
「進まないです」
「そうだな。しかしだ」
「しかし?」
「しかしっていいますと」
「簡単に見つかることは有り難くはない」
 日下部は二人に一つ重要なことを話した。
「簡単に見つからないからこそだ」
「有り難いんですね」
「そういうものですね」
「そうだ、これからも探すといい」
 今の日下部の口調は穏やかなものだった。
「そして見つけることだ」
「わかりました。それじゃあ」
「まだ探します」
「そうするといい。では今日はこれで終わりか」
「ですね、妖怪のこともわかりましたし」
「今日は」
 二人もこう日下部に答える。
「それじゃあ今日はこれで帰ります」
「また明日ですね」
 二人で話してそしてだった。
 愛実と聖花は二人で帰った。その前にすねこすり達を撫でたがその毛ざわりはまさに猫のものだった。勿論一緒にいる猫達とも楽しんだ。
 それが終わって帰り道に愛実はすねこすりや猫の毛ざわりを思い出しながら聖花にこんなことを言ったのだった。
「すねこすりさん達の毛ざわりって猫だったわね」
「そのものだったよね」
 聖花もこう愛実に答える。二人で横に並んで歩きながら話している。もう夜で二人共町の灯りに照らされている。
 二人はその中で話しているのだ。
「ううん、本当に猫にしか見えなかったけれど」
「見分けるの大変よね」
「っていうかわからないわよね」
 愛実は言う。
「あれじゃあね」
「そうよね。実際スコティッシュフォールドもいたけれど」 
 その垂れ耳の猫である。
「そっくりだったわよね」
「お髭の長さなんてね」
 愛実はこのことについても述べた。
「ちょっと見てだとわからないわよね」
「というかじっくり見ないとね」
 それこそだった。
「わからないわよね」
「そうよね。そういえば犬もね」
「犬も?」
「そう、うちのチロは柴犬だからそういうことはないけれど」 
 自分の愛犬のことも話す愛実だった。
「犬と狼もね」
「あっ、種類によっては似てるわよね」
「犬は元々狼からなったものだし」
 この辺りは牛や豚と同じだ。牛はもう絶滅してしまったオーロックすから、豚は猪からなった家畜なのである。
「それも当然だけれどね」
「シェパードなんか特に似てるわよね」
 シェパードの通称は狼犬という位だ。
「他には秋田犬とか甲斐犬も」
「甲斐犬は小さいけれどね」 
 形自体は狼に似ているというのだ。
「けれどそれ言ったら柴犬もじゃない」
「シルエットは狼っていうのね」
「そう、そう思うけれど」
「言われてみればそうね」
 愛実も聖花のその言葉に頷く。
「チロは狼っていうと全然違うけれど」
「優しい犬よね」
 チロのことは聖花も知っている。優しくて大人しい性格である。そして愛実にとてもよく懐いている。忠犬でもあるのだ。
 そのチロについて聖花はこうも言った。
「いい犬ね」
「でしょ?けれど狼っていうと」
「全然違うわよね」
「うん、本当にね」
「私怖い犬は嫌いだけれど」
 愛実は基本的に怖がりの性格である。吠える犬や威嚇してくる猫を見るとどうしても泣きそうな顔になってしまうのだ。
 だからこう言うのだった。
「チロは大好きだから」
「そうよね。愛実ちゃんチロ凄く可愛がってるわよね」
「うん。それにしてもね」
「それにしてもって?」
「いや、本当にすねこすりさん達って猫ちゃん達と見分けられないから」
「妖怪ってああして私達の傍にいるのね」
 聖花は妖怪達に何故気付かないでいたのかがわかってきた。
「それでよね」
「そうね。物陰にいることも多いみたいだし」
「ひょっとして」
「?ひょっとして?」
「いえ、この夜道にも」
 聖花は今度は自分達の周りを見回した。灯りに照らされているその夜道をだ。
 そのうえで愛実にこう言ったのである。
「妖怪さん達いるのかもね」
「そうかもね。もうすぐ梅雨だけれど」
「梅雨にも妖怪さん達いるから」
「ええ。衣替えもして」
 世間の話も出る。愛実はこのことも忘れない。
「それでね」
「また泉探そうね」
「そうしよう
 二人で笑顔で話をしながらそれぞれの家に帰った。二人は春が終わり梅雨に入ることも実感しながらこの日の終わりを迎えた。


第十五話   完


                             2012・11・9 
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