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八条学園怪異譚

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第十五話 足元にはその十


 だからこそここでこう言うのだった。
「私は海を見た、そして三笠を見てだ」
「三笠ってあの三笠ですか」
「今も横須賀にある」
 日露戦争の時の旗艦だ。東郷平八郎が乗艦したことで有名である。
「あの戦艦を見て感動してだ」
「それでなんですか」
「海軍に入られたんですか」
「兵学校も受けたのだがな」
 愛実と聖花に今度は青年時代のことを話した。
「そちらは落ちてしまった」
「それで経理学校ですか」
「そこに入られたんですね」
「兵学校はやはり難しかった」 
 その頃の日本で最難関だった。その次に陸軍士官学校、東京帝国大学となっていた。兵学校は東大よりも遥かに難しかったのだ。
 だがもう一つ入学すら困難な大学もあった。そこはというと。
「武道専門学校も難しかったがな」
「武道専門学校?」
 愛実は日下部が今言ったその名前に目をしばたかせて問い返した。
「何ですか、その学校って」
「あっ、戦前にあった学校なの」
 聖花がいぶかしむその愛実に横から話してきた。
「剣道に柔道、それに女子の薙刀を専門に勉強してその指導者を育成する学校があったのよ」
「そんな学校があったの」
「そうなの。京都にあって」 
 聖花は武道専門学校のあった場所も愛実に話す。
「それぞれの科で一学年辺りに十人しかいなかったのよ」
「二十人だけなの」
「全国の武道の猛者達の中からね」 
 二十人だけを選抜していたというのだ。
「競争倍率は相当だったらしいわ」
「ええと。全国の剣道とか柔道の猛者から」
「そう、二十人だけよ」
「少数精鋭だったのね」
「そう。それでその学校に落ちた生徒の為に設けられたのが国士館なのよ」
 今もあるあまりにも有名な体育会系の大学である。
「そうだったのよ」
「国士舘ってそうした経緯でできたの」
「あの大学もね」
「ううん、というかね」
 愛実はここまで聞いて唸る様な顔と声で述べた。
「一学年辺り二十人って少な過ぎるでしょ」
「だから難関だったのだ」
 ここで日下部がまた愛実に説明してきた。
「東京帝国大学への入学よりも難しかった」
「東大よりも難しい学校って結構あったんですね」
「そして私はその兵学校に落ちた」
 自分の話に戻す。
「期間学校と経理学校も受けたのだがな」
「経理学校には合格したんですか」
「機関学校にも合格したが舞鶴の経理学校に進んだ」
 そうしたというのだ。
「そして海軍に入った」
「そうした事情だったんですね」
「それで海軍にですか」
 あいみだけでなく聖花も頷いた。そしてすねこすり達もここで話す。
「僕達もよく海軍さんの軍艦見て凄いって思ってたんだよね」
「あの軍艦はね」
「昔の軍艦って奇麗で学校よかったよね」
「特に大和がよかったね」
「あんた達長生きなのね」
 愛実はすねこすり達の年齢にも気付いて問うた。
「海軍見てきたって」
「だって妖怪だからね」
 唯一にして最高の理由だった。 
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