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八条学園怪異譚

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第十五話 足元にはその八


「だから僕達君達のこと好きになったよ」
「宜しくね」
「ええ、こちらこそね」
「宜しくね」
 二人は微笑んですねこすり達に答えた。そしてそのうえで。
 二人はしゃがんですねこすり達のふわふわの毛や肉球を触ったり耳や喉を撫でたりしながらそのうえでこんなことを言った。
「けれどあんた達ってどうしてここにいるの?」
「やっぱり泉から来たのよね」
「多分ね」
「そうだと思うよ」
 今一つ要領を得ない返答だった。
「ううんと。僕達も気付いたらここにいたんだよね」
「前は山の中にいたんだ、六甲のね」
「そこで登山の人達の足元にまとわり付いていたりしたけれど」
「気付いたここにいたんだ」
 そうだというのだ。
「ここは凄くいい場所だけれどどうして来たかは」
「全くわからないんだ」
「おいら達なんかは違うんだけれどな」
 猫又もいた。彼は後ろ足で立ち上がって二人に言ってくる。
「何十年も生きてこうなって坑内に出入りしてるんだよ」
「あんたは普段どうしてるの?」
「お寺に住んでるんだよ」
 そこにいるというのだ。
「八条寺な」
「あそこになの」
「そこの軒下に住ませてもらってるんだよ」
「そういえば妖怪ってお寺にもいるのね」
「いい妖怪はいられるんだよ」
 これは幽霊にも言えることだ。悪霊やそうした類でなければ徳のある寺社にも出入りして住むことができるのである。
 それですねこすり達もだというのだ。
「僕達も住めるんだよ」
「そういうことなんだ」
「ふうん、それで住職さんはそのこと知ってるの?」
「あのリーゼントの住職さん」
「ああ、新しく住職になった人だよね」
 すねこすりも知っているという返事だった。
「今時時代遅れな髪型してるなって思うよ」
「何でもロカビリーが好きらしいのよ」
「音楽の趣味も古いのよね」
「そうよね。ロカビリーってね」
「昭和三十年代よね」
「先代は相撲マニアでね」
 先代は先代でだというのだった。
「しょっちゅう観戦に行ってたね」
「しかも無類の般若湯好きだったしね」
「息子さんに住職のお仕事任せて今もご健在だけれどね」
「今もお酒飲んでるしね」
「凄い住職さんだよね」
 すねこすり達は彼等のことをよく知っていた。そのことが彼等の会話からも実によくわかった。住んでいることもわかる。
「先々代もまだ生きてるけれどね」
「そっちは海軍マニアだしね」
「日露戦争がどうとかいつも言うし」
「代々変人ばかり住職なるお寺だよね」
「全くだよね」
「確かに住職さんで軍隊好きというのは少しな」
 海軍出身の日下部にしても思うことだった。
「殺生は駄目ではないのか」
「何かお国の為に仕事をするからいいらしいよ」
「しかも軍服が格好いいってね」
「それで海軍好きらしいんだ」
「今だと海上自衛隊も好きらしいよ」
「それはいいことだが」
 その海軍出身であり海上自衛隊OBである日下部にしては悪い話ではない、確かに住職ではあってもだ。
「だがな」
「まあね。考えてみたらお相撲って神社だしね」
「宗教違うからね」
「八条神社にいつもわざわざ行って楽しく飲んでるけれどね」
「あれもどうかって思うし」
「しかも先代さんはパンチパーマだしね」
 それが髪型だというのだ。
「ヤクザ屋さんの髪型だからね」
「先々代もアフロだし」
「もうお爺さんなのに凄い髪型だよね」
「まあそれでも僧侶としての見識と徳はあるけれどね」
「うん、悪い人達じゃないよ」
「というかあのお寺にも何度か宴会のお料理用意したことがあるけれど」
 愛実の家はそうした仕事もしているのだ。
「いい人達なのは確かね」
「ええ、私のお家のお店にも来るけれど」
 聖花も八条寺の住職達のことは知っていた。 
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