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八条学園怪異譚

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第十五話 足元にはその七


「だが違うのだ」
「何処がどう違うんですか?」
「本当に全然違うんですけれど」
「髭だ」 
 そこに違いがあるというのだ。
「すねこすりの髭は猫より短く本数も少ないのだ」
「何か見分けがつきにくいですね」
「お髭だと」
「外見で見分けることは難しい」
 猫とすねこすりはだというのだ。だがそれでもだった。
「すねこすりは人間の言葉を普通に喋ることが出来る」
「妖怪だからね」
 そのすねこすりが言ってきた。見事なまでに流暢な日本語で愛実と聖花に対して言ってきた。
「僕は喋られるよ」
「あっ、確かに」
「それならわかるわ」
「そこが猫君達と違うんだ」 
 こんなことを言いながらその猫達とも遊んでいる。
「ここでは一緒だけれどね」
「実際に猫にしか見えないし」
「お髭なんてわかりにくいから」
「いや、それで結構得もしてるしね」
 猫そのものの動作で右の前足を出しながらの言葉だった。
「人間と一緒にも暮らせるしね」
「っていうと猫として飼ってもらったりとか?」
「そんなこともあるの」
「普通にあるよ。僕達が妖怪だってわかるのって日下部さんか博士位じゃないかな」
 要するに普通の人間ではない面々しかわからないというのだ。
「あと牧村さんだね」
「そうそう、あの人も僕達と一緒にいるからね」
「僕達のこともわかるよね」
 すねこすりは一人ではなく何人もいた。どのすねこすりもその外見は普通にスコティッシュフォールドに見える。
 その彼等がスコティッシュフォールド達と遊びながら言うのだ。
「あの人もいつも僕達と一緒にいるから」
「わかるんだよね」
「ちょっと見ただけじゃ全然わからないけれど」
「わかる火とはわかるのね」
 二人にとっては全くわからないことだった。
 すねこすりとスコティッシュフォールドをそれぞれ何度も見るがそれでもだった。二人には全くわからなかった。
 それで顔を見合わせてこう言い合った。
「お髭って案外ね」
「わからないからね」
「というか何がどう違うのか」
「本当にわからないわ」
「だが違うのだ」
 日下部もこのことを言う。
「何度も見ているとわかってくる」
「要するに慣れですか?」
 愛実は首を傾げさせながら日下部のその言葉に問い返した。
「それって」
「そうだな。そう考えていいな」
「ううん、妖怪の人達を見るのも慣れですか」
「いつも見ていればわかる」
 日下部は愛実だけでなく聖花にこうも言った。
「とはいっても意識して見ないとわからない」
「確かに。から傘さんにしてもじっとしてたら普通の傘にしか思えないですし」
「人体模型の人達もね」 
 聖花は普通科理科室の彼等のことを言った。
「普通にいたらね」
「全然見分けがつかないから」
 こう二人で話すのだった。
「だからすねこすりさん達もなのね」
「いつも意識して見ないとわからないのね」
「妖怪はいつも人間と共にいる」 
 このことは確かだ、だがそれでもだというのだ。
「しかしいることに気付くことは難しい」
「ですね。それがわかってきました」
「私もです」
 愛実と聖花は二人で言った。
「どんな時でもどんな場所でも人間と一緒にいるけれど」
「気付きにくい存在なんですね」
「そうそう。だから気付いてくれたら嬉しいんだよね」
「僕達にしてもね」 
 すねこすり達は二人の足元に来て言ってくる、そのうえで身体を摺り寄せてくる仕草はまさに猫のものだった。 
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