八条学園怪異譚
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第十四話 茶道部の部室でその五
「そちらも」
「学問を学校の授業に置き換えたのが勉強じゃが」
「そうですよね」
「しかし勉強と言うと抵抗があるやもな」
「私そんなに得意じゃないです」
実際はそれなりにできるが聖花が優等生なのでこう答えた愛実だった。
「とりあえず大学は出たいって思ってますけれど」
「八条大学じゃな」
「お店があるんで経済学部にしようって思ってます」
愛実は博士にこのことも言った。
「そう考えてるだけですけれど」
「いやいや、目指すものがあればそれでよい」
博士は笑って聖花のその考えをよしとした。
「それでじゃが」
「それで、ですか」
「君も知りたいと思うならじゃ」
「勉強してそうして」
「そうじゃ。進むことじゃ」
それが大事だというのだ。
「頑張る様にな」
「はい、そうします」
「妖怪もまた学問じゃ」
博士は愛実と聖花にこうも言う。二人はこれまで妖怪や幽霊の類は学問ではないと思っていた、しかし博士はこう二人に言ったのである。
「民俗学になるからのう」
「民俗学?」
「簡単に言うと民衆の歴史や風俗文化への学問じゃ」
それだというのだ。
「それが民俗学じゃ」
「そうした学問の分野もあるんですね」
「そうじゃ。柳田邦男からはじまった」
民俗学を築いた大学者だ。この人物あってこその民俗学である。
「何度か会って話もしたが中々難しい御仁じゃッた」
「柳田邦男って何時頃の人だったかしら」
「大正とかその辺りよ」
聖花はここでも首を傾げさせた愛実に答えた。
「戦前にも活躍していたし戦後もね」
「結構新しい時代の人?」
「そうみたいね」
「民俗学自体が比較的新しい学問なのじゃよ」
博士はこのことも愛実に話す。
「歴史学と比較してじゃが」
「そうなんですか。新しいんですか」
「歴史学に比べると」
「そうじゃ、まあとにかくここにいる者達も学問に入るのじゃ」
妖怪や幽霊もまた然りだというのだ。
「オカルトもまた然りじゃ」
「オカルトもですか」
「そっちもですか」
「大きく言うと何もかもが学問じゃ」
「じゃあ錬金術もですか?」
愛実は何となくこれを話に出した。前に乗った自転車で使われていたのでそれで咄嗟に話に出たのである。
「そっちもですか」
「その通りじゃ。魔術もまた然りじゃ」
「ううん、お伽話じゃないんですね」
「左様」
まさにそうだというのだ。
「馬鹿に出来るものではないぞ」
「そうなんですね」
「そういうことじゃ。それで泉のことは頼むとして」
「はい」
「茶室もことじゃな」
博士はこの話も二人にした。
「夕方に部活の途中に気付いたらおるお年寄りじゃな」
「それもですよね」
「妖怪ですよね」
「わしじゃ」
ここで和服の小柄な老人が手を挙げてきた。禿げた頭の後ろはかなり出ていてエイリアンの様だ。その老人が出て来て言うのだった。
「わしがいつも厄介になっておる」
「誰?」
聖花が目をしばたかせてその老人に尋ねた。
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