八条学園怪異譚
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第十四話 茶道部の部室でその二
「中国の歴史書で史記だの漢書だのがあるがじゃ」
「それが正史ですか」
「うむ、国家により正統な歴史書と定められた歴史じゃ」
「じゃあ学校の歴史も」
「校史として定められたものがあってじゃ」
「それとは別にですか」
「公には書けない歴史もあるのじゃ」
これは国家や組織の歴史ではままある。実際に起こったことであるが正式に歴史に残すには様々な理由からできない話だ。
そしてそれがだというのだ。
「妖怪だのの話は中々のう」
「載せられないんですね、校史に」
「そういうことじゃ。それは裏の歴史として書き残される」
「裏ですか」
「そうじゃ、裏じゃ」
紛れもなくそれだというのだ。
「他にも公に出来ぬ事件だのがい色々あってのう」
「何かやばい話よね」
「それ一杯ありそうね」
愛実と聖花は博士の話からこのことを察した。
「知ったら普通にいられない様な」
「そんな話もありそうな」
「うむ、この学園も色々あってのう」
博士自身もこう言う。
「君達が知らぬ方がいい話も多いぞ」
「ですか、やっぱり」
「そうなんですね」
「人間には美醜があるのじゃ」
博士は伊達に長生きしている訳ではない、人間のそうした様々な面も多く見てきた、それは表に出ないことではあってもだ。
「その醜いものはのう」
「その。色々あることですよね」
「本当に言うことが憚れる様な」
「知らぬが仏というのは嘘ではない」
博士はこの諺も否定しなかった。
「本当にそうなのじゃよ」
「知って後悔する物事も多いですよ」
ろく子も今回は真面目な顔で言う、コミカルな表情になることの多い彼女だがシリアスならば普通の知的な美人に見える。
「人間にしろ妖怪にしろ」
「どっちにしても」
「学園の歴史に書かれない、書かれたらいけないこともある」
「そういうことなんですね」
「つまりは」
「その通りじゃ。そしてじゃ」
博士はさらに言う。
「君達に今話すのはその裏の中で話せるものじゃ」
「泉ですね」
「その存在ですね」
「うむ、妖怪や幽霊がこの学園に出入りする泉は確かにある」
それは間違いないというのだ。
「この学園はそもそもその泉の存在を知ったうえでここに置かれたという」
「えっ、最初からですか」
「それを知ったうえでなんですか」
「うむ、そう書いてあった」
学園の歴史にちゃんとだというのだ。
「この学園は明治二年に創設されたがのう」
「海軍兵学校と同じ年にできたんですよ」
ろく子が話を捕捉してきた。
「古い学校なんです」
「明治二年っていうと」
「かなり古いよね」
「わしがまだ生まれた頃かその頃じゃ」
博士はさらっと物凄いことを言った。
「当然その頃のことはこの目では知らん」
「というか明治の頃に生きてたらもう」
「かなりですよ」
大正生まれの人も少なくなってきている、時代は常に移ろい人は去っていく、そうして過去は遠くなっていくものだ。
「というか博士って本当に幾つですか?」
「明治のはじめの頃でそう言えるなんて」
「冗談抜きで仙人じゃないですよね」
「そうした存在じゃ」
「まあそれは置いておいてじゃ」
自分の身の上は語らない博士だった。
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