八条学園怪異譚
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第十三話 理科室のマネキンその七
「人を襲うなり食うなりとな」
「人にある潜在的な恐怖だからですね」
聖花は少し考えてからこう日下部に述べた。
「だからですね」
「そうだ。生きているなら誰でも思う」
これは人だけではないというのだ。
「自然の摂理がそうだからな」
「食べて食べられてだからですよね」
「食物連鎖だがその中で食われて死ぬことを恐れることは当然だ」
どんな生き物にも生存本能がありそこから死を恐れることは当然のことであるというのだ。日下部は二人にこのことを言うのだった。
「それはな」
「私だって嫌ですね」
愛実もここで言う。
「狼とかに食べられるのは」
「そうだな。しかし狼は人を襲わない」
「えっ、人を食べたりしないんですか」
「畑を荒らす猪や鹿は食うが人は襲わない」
ニホンオオカミの話である。
「だから大神なのだ」
「神様でもあったんですか」
「日本ではな。西洋では悪魔とさえ思われていたが」
「童話とかじゃ凄いですけれど」
赤ずきんにしても七匹の子山羊にしてもだ。他には三匹の子豚でも狼は悪役として出て最後は成敗される。
「全然違うんですね」
「西洋では家畜を襲う動物だからだ」
「羊とかでをですか」
「だから忌み嫌われていた」
それでだというのだ。
「だが日本では牧畜はしていなかったからな」
「狼は嫌われていなかったんですね」
「逆に畑を荒らす猪等を食べてくれる有り難い存在だった」
またこの話になる。
「だから日本では狼を邪悪な存在とはしていなかったのだ」
「だったんですか」
「そもそも狼から犬になった」
「あっ、そういえば」
愛実もここで気付いた。
「犬って狼からそうなったんですね」
「そうだ。狼を飼ってだ」
「最初の家畜でもありますね」
「だから人間の友達とも言われる」
「そうですよね」
「食べることもあるがな」
これはその国のその文化による。このことは全否定できるものではない、文化は同じ物差しでは計ることができないからだ。
「それでも人間にとっては欠かせない存在だ」
「狼が人間を特に襲ったりしないから」
「そういうことだ。狼は凶悪な生き物ではない」
そうだというのだ。
「もっとも犬も人を襲うことがあり」
「狼もですね」
「勝海舟も犬に襲われたことがある」
それで睾丸を傷付けられ以後犬を非常に恐れていた。
「気性の荒い犬もいる」
「そして穏やかな犬もですね」
「狼もそれぞれだ」
性格があるというのだ。
「そのことは理解しておくことだ」
「ですか。そういえばこの学園で犬とか狼の妖怪は」
「いる」
日下部はすぐに答えた。
「だが大人しい妖怪だから怖がることはない」
「そうですか」
「それと話を戻すが」
日下部はあらためて二人に話した。
「普通科の模型達は特に怖がることはない」
「別に襲い掛かったりしないからですか」
「だからですか」
「宿直の先生の誰かが夜の見回りで動くのを見掛けて驚いたのだ」
それでそうした噂になったというのだ。
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