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八条学園怪異譚

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第十三話 理科室のマネキンその六


「ダンスは社交ダンスをした程度だ」
「えっ、社交ダンスって」
 愛実は日下部の今の言葉に目を丸くさせて問い返した。見れば聖花も彼女と同じ顔になって日下部に顔を向けている。
「何でそんなのしてたんですか?」
「日下部さんって華族の方だったんですか?」
「いや、普通の家に生まれた」
 日下部は驚く二人に淡々として返した。
「当時のな」
「それで何で社交ダンスなんか」
「どうしてやってたんですか?」
「士官としての嗜みだ」
 それでだというのだ。
「やっていたのだ」
「士官ってダンスもするんですか?」
 聖花は首を捻りながら日下部に問い返した。
「そうなんですか」
「前にも言ったが海軍士官は外交官でもある」
 これは兵士も同じだ。
「だから他国の外交官や軍人との交流の場も多い」
「それでその時にですか」
「社交ダンスをすることも多い」
「じゃあその時に」
「そうだ、踊るからだ」
 それで社交ダンスをしていたというのだ。
「あれはあれでかなり大変だ」
「ですか」
「そうだ。それでだが」 
 日下部は聖花に応えながらさらに話す。そうしながら水産科の校舎から普通科のそちらに向かっている。
「私はラップやそうしたものは知らない」
「じゃあマイケル=ジャクソンは」
 愛実はラップではないがこの伝説的アーティストの名前を出した。
「踊らないんですか」
「見事だとは思うがな」
 だがそれでもと返す日下部だった。
「私の専門外だ」
「そうですか」
「マイケル=ジャクソン以外ではプレスリーもだな」
 エルビス=プレスリーだ。腰をやけに振るダンスが当時は猥褻と批判されることも多く物議を醸し出した。
「私の専門外だ」
「何か古いですね」
「古いか」
「マイケルも死んじゃいましたし」
 愛実はこのことを寂しい顔で言った。
「プレスリーなんて本当に」
「私達が生まれる前に死んでますから」
 聖花もプレスリーについて言及する。
「確かドーナツの食べ過ぎでかなり太ったんですよね」
「あっ、ドーナツってカロリー高いのよね」 
 愛実はドーナツと聞いてこのことを言った。
「だから食べ過ぎると」
「そう、プレスリーって晩年はドーナツばかり食べてたから」
「ああ、それは太るわね」
「何かお薬もやってたって噂もあるし」
 このことについてあまりよくない話もある。
「結構最後の方はね」
「寂しいというか残念な話が多いのね」
「マイケルもそうだしね」
「そうよね。凄い人って最後の方寂しいこと多いわよね」
「そうなのよね」
 聖花は愛実に話しながら少し俯く。愛実もそうなっている。
 日下部はその二人を見てこう声をかけた。
「それで普通科の理科室だが」
「はい、そこの模型さん達ですよね」
「人体模型と骸骨ですよね」
「悪い連中ではない」
 二人にこのことを保障するのだった。
「だから安心していい」
「まあ。骸骨がどうして食べるかとか」
「模型にしてもそうですけれど」
 愛実も聖花もこのことは少し考えてからわかることだった。
「ないですよね」
「本当に変な噂ですね」
「どうしても怪談はそうした話になる」
 例えその対象の本質が善と言っていいものであってもだというのだ。 
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