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八条学園怪異譚

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第十二話 首なし馬その十四


「しかし夜に校舎から生徒がいないとだ」
「動きだすんですね」
「その時に」
「そういうことだ。実は普段から動けるがだ」
 それでもだというのだ。
「普通のマネキンのふりをしているのだ」
「ううん、じゃあ実はなんですね
「ふりをしてるんですね」
「その通りだ。君達の商業科にもそういうのはいるからな」
「えっ、うちのマネキンもですか?」
「理科室の」
「いや、商業科のマネキンは動かない」
 そちらは大丈夫だというのだ。
「あれはまだできて短いからな」
「だからですか」
「意識はないんですか」
「普通科の模型はできて百年以上経っている」
 模型としては規格外の長さだ。粗末に扱えばすぐに壊れる代物だがそれを百年ももたすとなるとそれは相当なものである。
 夜行さんはその動く模型のことを二人にさらに話す。
「だからだ」
「そういえばものって百年経つと」
 聖花は自分が今乗っている自転車も一瞥して言った。
「意識を持つっていいますと」
「猫も五十年生きると猫またになるというな」
「はい」
 尻尾が二本になっている猫の妖怪だ。後ろ足だけで歩き人間の言葉を操る。そして妖術も使える妖怪である。
「それと同じですか」
「長く生きるとそれだけで力を備える」
 そうなるというのだ。
「だからこの普通科の模型もだ」
「動くんですか」
「年季を経てるから」
 聖花だけでなく愛実も言う。
「そうなるんですね」
「つまりは」
「そういうことだ。書道の硯もだ」
 夜行さんは毛筆の話もした。
「あれも百年経つと魂を持つ」
「それで話すんですか?」
「自然と動いたり」
「喋ったり動くこともできる」
 それは当然だというのだ。
「そして持ち主に素晴らしい字を書かせるのだ」
「何かそれって有り難いですね」
 愛実は奇麗な字を書かせてくれると聞いてすぐにもの欲しそうに言った。
「お品書きも奇麗に書けますね」
「書道に使おうとは思わないのか」
「えっ、実用第一ですよね」
 愛実はここでも食堂の娘として考え話す。
「ですから」
「だからか」
「はい、それでお品書きに」
「いいのか悪いのか」
 夜行さんも愛実の今の言葉とその考えには首を捻る。
「はっきり言えないな」
「けれど悪くないですよね」
「それはそうだが」
「だってそれで誰かに悪いことはしないですから」
「文字は力だ」
 夜行さんは日本で古来より言われていることも話した。
「善にもなれば悪にもなるのだ」
「陰陽道も書いてこそですよね」
「そうだ」
 夜行さんは聖花の今の言葉には頷けた。
「文を書いてそれが力になる」
「そうですよね」
「文字、文章というものは危険なものなのだ」
 夜行さんの口調は明らかに教訓を言うものになっていた。
「軽々しく落書きをするのもよくない」
「落書きっていいますと」
「この学園にもあるな」
「はい、いつも消されてますけれど」
 よくある話だがトイレの壁に書かれている。ある掲示板の書き込みがそうしたものとよく言われるが実際にそうした書き込みがあるのも事実だ。 
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