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八条学園怪異譚

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第十二話 首なし馬その九


「その人達がなのじゃよ」
「本物の鬼ですか」
「うむ、軍隊を支える鬼じゃ」
 そうだというのだ。
「軍、自衛隊のことなら何でも知っておるのう」
「その人達が鬼ですか」
「そうじゃ、そちらの人達こそが鬼じゃ」
 海軍でも先任下士官達の恐ろしさは有名だった。
「凄いぞ、先任下士官は」
「そんなにですか」
「怖いんですね」
「軍は士官では動かぬ」
 漫画や小説、映画では士官がよく出て来るが実際の部隊ではまずは下士官、先任下士官が大事になるのが軍隊なのだ。
 そして日本軍はどうだったか、博士は二人に話していく。
「日本軍が強かったのもじゃ」
「先任下士官の人が凄かったからですか」
「だからですか」
「そうじゃ。確かに兵学校は凄まじく厳しい教育で鍛えておった」
 これは陸軍士官学校も同じだ。
「しかし実際は士官よりも下士官なのじゃよ」
「ううんと、あれですか?」
 流石に軍のことは然程詳しくはない聖花はこう博士に尋ねた。
「つまりは」
「つまりは。何じゃ」
「ベテランの職人さんみたいなものですか」
「うむ、鋭いのう」
「あっ、そうなんですか」
「士官はただの監督であり命令を下して責任を引き受けるだけじゃ」 
 何気に色々ありはする。
「しかしじゃ」
「その先任下士官の人達はですね」
「その通り、腕利きのベテラン職人なのじゃ」
「大工さんの世界みたいなものですか」
「そうじゃな。工事現場かも知れんが」
「じゃあパン屋さんでパンを焼く人で」
 聖花はパン屋の娘らしくこう考える。
「それで士官の人は店長さんですか」
「まあ。百観点のパン屋さんの部門と考えればのう」
「そうなるんですね」
「そんなところじゃな」
「それならよくわかります」
「そうよね」
 聖花に続いて愛実も頷く。
「先任下士官の人が実際にトンカツとか海老フライ焼いてよね」
「士官の人達が店長さんでね」
「そうした関係よね」
「つまりは」
 二人で話して納得する。結局はそういうことだった。
 赤鬼と青鬼は二人の話が一段落したところでまた言ってきた。
「鬼は怖い、厳しい、徹底的にやるといった意味もあるからな」
「俺達もそう思われている」
「もっとも俺達はただ遊ぶだけだけれどな」
「こうしてな」
 実際に今もその大きな手で菓子を食べている。饅頭がまるで米粒の様だ。
「まあ遊ぶ鬼だな」
「そうしたところだ」
 こうにこにこと言うのである。
「お菓子にお茶を楽しめば」
「酒も好きだからな」
「葡萄に豆腐が好きだぞ」
「赤ワインも大好きだ」
「赤ワイン飲むから血を飲んでるとか言われるんじゃ」
 愛実は酒呑童子の話を思い出した、童話にも出て来るので知っているがこの鬼は鬼の中でもとりわけ有名である。
「それが悪いんじゃ」
「自覚はしている」
 鬼自身もそうだった。
「しかしワインは美味いし身体にもいいぞ」
「だから飲むのね」
「日本酒は糖尿病、ビールは痛風になるぞ」
「人間みたいなこと言うわね」
「実際妖怪も成人病になるからな」
 実に夢のない言葉だった。妖怪になっても病気からは逃れられないというのだ。
「気をつけないとな」
「ううん、痛風で苦しむ鬼って」
「実は一度痛風になったことがある」
 赤鬼は自分の右足の親指の付け根を見た、痛風になるとまずはそこが痛くなるからである。 
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