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八条学園怪異譚

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第十話 大学の博士その十六


「だから錬金術もですか」
「普通になんですね」
「そういうことだ。だから色々と教えてもらうといい」
「はい、それじゃあそうさせてもらいます」
「是非共」
 二人も博士に頼ることも念頭に置いた。自分達だけでやれることも限度があるし日下部も夜にしか会えないからだ。
「それにしてもこの学園って一体」
「どういう学園なんでしょうか」
「だからこそですよ」
 ろく子はいぶかしみながら歩く二人に優しい笑顔で述べた。知的なその顔に優しいものも加わったのだ。
「博士もお知りになりたいんですよ」
「まあ。悪い妖怪の出入り口じゃないですし」
「それならですね」
「はい、問題ありません」
 ろく子もこのことは保障する。
「この学園はとにかく結界がしっかりしていますから」
「風水的にもですね」
「それに北東と南西に護りもあるから」
「だからですね」
「悪い妖怪や幽霊は出入りできないし中にもいられないんですね」
「そうです。中も同じですから」
 結界は中にも効果があるというのだ。この辺りは中では百鬼夜行が跳梁跋扈した京の都よりよい結界であると言えるだろうか。
「ご安心下さい」
「そりゃ人を殺したり食べたりする妖怪とか」
「ちょっと洒落にならないですから」
 二人はそうした妖怪には心から恐怖を覚えていた。
「本当に勘弁して下さいね」
「そういうのは」
「勘弁と言われしても私では」
 ろく子は愛実の今の言葉には笑ってこう返した。
「どうしようもないですから」
「あっ、ですよね」
「妖怪で出来ないことも多いですから」
「人間とはまた違うからですね」
「身体は違いますから」
 心が人のものであってもそこが違っていた。
「その辺りはご存知になっておいて下さい」
「ですよね」
「とにかくだ」
 牧村も二人に話す。
「俺も何かあればだ」
「協力してくれるんですね」
「私達に」
「そうさせてもらう。何でも言ってくれ」
「ただし牧村さんはですね」
 ここでまた言ってきたろく子だった。知的な美貌を讃えているが実は結構気さくで世話焼くの性格の様だ。
「交際されている方がいますから」
「だからですか」
「交際とかは」
「確かに格好いいですけれどね」
 顔は表情に乏しく声もぶっきらぼうな感じだ。だがそれでも確かに外見はかなりよかった。
「そこはご注意下さい」
「ですか。確かに格好いいですしね」
「それに意外と親切ですし」
「意外か」
 聖花の今の言葉にはすぐに突っ込みを入れた彼だった。
「そこは意外になるか」
「まあ何ていいますか」
「別にいいがな」
「ついでに言えば就職先も決まってるんですよ」
 ろく子は二人にさらに話す。
「駅前のマジックに就職します」
「あのお店ですか」
「あそこに」
「そうなんです。その交際されている方と」
 ここから先を言うとどうにも無粋なのでそれは言わないろく子だった。
「お菓子作り担当ということで」
「牧村さんお菓子作られるんですか!?」
 聖花はそう聞いて思わず驚きの声をあげた。その驚きは妖怪達をはじめて見た時と同じだけのものだった。
「そうなんですか」
「そうだが」
「そうなんですか。お菓子を」
「まるで宇宙人を見た様だな」
 妖怪とどちらがそうした存在かはわからないが牧村は今はこう言った。
「そうした感じだが」
「まあちょっと」
「しかし俺は実際にお菓子作りが好きだ」
 そうだというのだ。
「趣味にしている」
「ううん、ですか」
「ではだ」
 ここで話が変わった。牧村からそうしてきた。
「そろそろ大学の正門だが」
 それが見えてきた。わりかし大きい門である。
「ここから先は大丈夫だな」
「はい、後は普通に高校に戻れます」
「帰りの案内も有り難うございます」
「何時でも来て下さいね」
 ろく子は礼を言った二人に眼鏡の奥の目を笑わせて声をかけた。
「それではまた」
「はい、それじゃあまた」
「宜しくお願いします」
 二人は牧村とろく子に深々と頭を下げてそのうえで大学を出た。そうして高校に向かうが。
 聖花は自分の左手にある時計を見てこう言った。
「急がないとまずいわよ」
「時間ないの?」
「ちょっとね。走ろう」
「私走るの苦手なのに」
 愛実はこう言って聖花に対して苦い顔を向けた。
「それでもなの」
「そう。走らないと」
「わかったわ。それじゃあね」
「ええ、走ろう」
 聖花の方が先に駆けだし愛実もそれに続く。二人は何とか午後の授業に間に合いそうして普通の学園生活に戻るのだった。


第十話   完


                          2012・9・24 
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