真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第80話 洛陽へ凱旋
冀州で霊帝宛に報告書を送って、一ヶ月後に霊帝の勅使が私の元に来て、至急洛陽に来るように伝えてきました。
これから領地経営を始めようとしている矢先に迷惑な話です。
愚痴の一つも言いたい心境でしたが、勅使に文句を言う訳にもいきませんでした。
しかし、勅使が彩音の常山郡大守就任の詔を持ってきていたので腹立たしさは半減しました。
霊帝が私に何の用なのか疑問に思いましたが、私は揚羽を連れ洛陽に向かいました。
洛陽に着くと、私と揚羽は姉上の屋敷に厄介になることにし、身なりを整え霊帝に謁見するために宮中に参内しました。
「陛下はこの度の召還で正宗様に後継者の話をすると思います。くれぐれも言葉には気をつけてくださいね。何進様には麗羽殿を通して、正宗様が協皇子側に立たされそうであることは伝えています」
揚羽は真剣な表情で言いました。
「揚羽、手際がいいな」
私が左将軍就任した日の夜に私から今後の歴史を熱心に聞いていたのはこのためだったのですね。
「それが私の役目です」
揚羽は嬉しそうに微笑んでいました。
「冀州に来る前に手を回したのか?」
「兵器工場の解体作業の傍ら、麗羽殿に訳を話して頼んでおきました」
「それで、何進様から私に言づてはあるのか?」
私が表向き劉協側に立つことに対して、何進様がどういう心境なのか気になりました。
「陛下の思し召し通りに動き、今後は、私と一切連絡を取るなと。最後に、私を裏切るなよと仰っていたそうです」
揚羽は淡々と言っていました。
「私に間者になれということか?」
「有り体に言えばそうですね。しかし、何進様も仰っていたそうですが、陛下は正宗様が何進様に通じていることを承知していると思います。正宗様を引き込むのは何進様への牽制でしょう」
揚羽は空を遠目で見ながら言いました。
「私はどうなるんだろうな・・・・・・」
私は凄く不安になりました。
「今日のお召しは黄巾賊討伐の褒美の件でしょう。そのついでに、協皇子の話をすると思いますが、謀議ではないでしょうから、肩の力を抜いてください」
揚羽はそういうと私の背中を叩いてきました。
「揚羽、少し気分が楽になった。じゃあ、行ってくるか」
「行ってらっしゃいませ」
揚羽は微笑んで言いました。
私が議場に入ると霊帝、張譲、ガタイの良い宦官が一人いました。
私は霊帝の前に進み出て平伏しました。
「劉正礼、陛下のお召しにより只今参りました」
「劉ヨウ、黄巾賊討伐の戦果は聞き及んでおるぞ。10万の逆賊を6万の兵で殲滅したそうではないか。その上、お前に恐れをなした逆賊共が降伏してきたそうだな」
霊帝は上機嫌に言いました。
「私の実力など大したものではございません。全ては陛下の徳のなせる業と存じます」
私はうやうやしく言いました。
「劉ヨウ、そちは謹み深いのう・・・・・・。そちの叔父劉寵も本当に欲のない男であったな・・・・・・」
霊帝は染み染みと感慨に耽っているようでした。
「そうであった。お前を冀州より呼んだのは他でもない。そちに此度の褒美を取らせようと思ってな。蹇碩、あれを劉ヨウに渡せ」
霊帝はガタイの良い宦官に声を掛けました。
蹇碩の見た目は髪を黒くしたシュワルツネッガーそのもので、言い知れない凄みがありました。
「陛下、畏まりました」
蹇碩は陛下に一礼すると小箱を持って私の前に進み出て、その箱を私の前に置き元居た場所に戻りました。
「劉ヨウ、そちを清河王に封じ、左将軍に代わり車騎将軍と鉅鹿郡大守に任ずる。冀州刺史はそのまま据え置く。それは王の印綬と大守の印綬じゃ。受け取るが良い」
霊帝は厳かに言いました。
「陛下のご厚情感謝いたします。私のような若輩者に王の爵位を与えてくださり感涙の極みでございます」
おいおい、これはどういうことです。
黄巾賊討伐の成果とはいえ、王の爵位は奮発しすぎでしょう。
「劉ヨウ、そちはたった二ヶ月で冀州に巣食う逆賊を討伐したのだぞ。その上、逆賊を降伏させ、その者達を労役に服させているそうではないか。皇甫嵩、朱儁などとは比べるもない。そちのお陰で朕の威光は天下に鳴り響いたものと思うぞ。この位の褒美は当然のことであろう。ふはははははっ――――――!」
霊帝は上機嫌に大声で笑って言いました。
「陛下、劉車騎将軍にあの話をしてはいかがでしょう」
上機嫌に笑う霊帝にうやうやしく張譲が声を掛けるのを見て、彼の態度に一抹の不安を覚えました。
「おお、そうであったな。劉ヨウ、朕はそちに相談したいことがあるのだが、聞いてくれるか?」
霊帝は急にこめかみに指を当て、難しい表情をしました。
「私でお役に立つか分かりませぬが、微力ながら陛下の力にならせていただきます」
「劉ヨウ、朕は弁のことで悩んでおる」
劉弁の名前を口にした霊帝は機嫌の悪い表情になりました。
「弁皇子のことでですか?」
揚羽の言う通りになりそうです。
「弁は頭が悪く引きこもりがちで、とても朕の後継者には指名できぬ。されど何皇后と何進は弁を後継者にしたがっておる。確かに、弁が年長ゆえ、弁が後継者になるべきなのだろう。だが、朕は納得ゆかん! なぜ、あの愚鈍な者を後継者にせねばならん!」
霊帝はいらいらした態度でしたが、何皇后と何進の話をし始めると激しく興奮し、大声を張り上げました。
こんな感情的な霊帝は初めて見ました。
「劉ヨウ、そちはどう思う?」
霊帝は息を乱しながら、私に後継者について意見を求めてきました。
臣下の私が好き勝手に言えるわけないです。
心の中で溜息をしつつ、重い口を開きました。
「陛下、臣下の身で陛下の後継者について意見を申しあげるのは君臣の道に外れます。どうかお許しください」
私はうやうやしく平伏して明言することを避けました。
「劉ヨウ、そちの態度が臣下あるべき姿ぞ! 何進の奴め、表向きは朕に服従しておるが、裏では弁を皇子に据えようと画策しておる!」
霊帝は声を荒げて何進様を罵りました。
「劉車騎将軍、陛下は後継者のことで日夜胸をお痛めになっております。ここはあなたも陛下にご協力願えませんかな。おお、なんとおいたわしいのでしょう」
張譲は目頭を抑え、うやうやしく態とらしい態度で言いました。
「張譲殿は協皇子を擁立しようとお考えなのですか?」
「私は陛下のご意志に従うまでです」
張譲は明言せずに、「陛下のご意志」を強調して言いました。
「ならば、私も陛下のご意志に従います」
私は張譲に倣って霊帝への協力の意思を伝えました。
「劉ヨウ、朕の力になってくれるのだな。朕は忠臣に恵まれ嬉しい限りぞ!」
霊帝は笑顔で言いました。
「微力ながら、この劉正礼が陛下に協力させていただきます」
「劉ヨウ、これからよろしく頼むぞ! 蹇碩、これからこの者と協力することになるであろうから挨拶をせよ」
霊帝は蹇碩の方を向き言いました。
「劉車騎将軍、私は蹇碩と申します。以後、お見知りおきください」
蹇碩は鋭い眼光で私を凝視すると、ドスの聞いた声で言いました。
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