SAO─戦士達の物語
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ALO編
六十五話 翡翠と風の街
高低それぞれの音程を持つ三つの羽音が、リョウの耳に響く。
現在、リョウとキリト、リーファは、リョウの体感的にこの世界でもそれなりに速いのだろうと思える速度で飛行していた。
先頭をリーファとして、リョウ、キリトがそれぞれ左右斜め後ろに着き、同じ速度で飛行する。いわゆる編隊飛行である。ちなみにユイは三人のスピードについて来れなくなってしまい、今はキリトの胸ポケットの中だ。飛行の快感を三人とも存分に味わい、かなり楽しんでいる。
やがて前方に、緑色に淡く光る巨大な尖塔群が見え始めた。
「お、見えてきたな!」
「あれか!?」
「うん!中央の塔の根元に着陸するよ!……って……」
そこまで言って、リーファはふと気づいたように飛びながらキリトとリョウの方を見る。
「君達、着陸《ランディング》の仕方、分かる?」
「……あ、知らね」
「ヤバ……くないか?これ……」
そうこう言っている間に、すでにリョウ達の視界の半分近くは塔に占められていて……
「ごめん。もう遅いや。二人とも、健闘を祈るよ」
えへへ。と笑ったリーファが自身の翅を大きく広げ、一気に減速してリョウ達の視界の後ろに消えた。
「そ、そんな馬鹿なあああぁぁぁ!?」
「き、キリト翅広げろぉ!」
「なんで!?」
「勘だ!言わせんな!うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
とにかく止まれば良いのだろうとリョウは必死に翅を大きく広げ、キリトもそれに習う。結果……
「あ、危ねぇ……」
「おおぅ……」
完全に止まりきれはしなかったものの、塔の壁にキックして止まる程度にはスピードを落とせた。
「「ふぅ…………ん?」」
しかし当然、空中での推進力を完全に止めれば彼らの体には仮想の重力が働くわけで……
「「のあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」
高い高い塔の壁近くを、二つの人影が、落下した。
「うぅ~、死ぬかと思った……」
「危うく『忘れてた』で殺されるところだったな……」
「まだぐるぐるしてますぅ~~」
あの後、反射的に翅を思い切り震わせたリョウは何とか地面に激突する前に体を止める事が出来たが、本当にギリギリだったためキリトは瞬間的に判断が遅れ、背中から地面にドフッ!という鈍い音を立てた。しばらく悶絶していたキリトだったが、今は着陸地点の塔近くの花壇に座ってグロッキーになっている。
「あははは。それにしても二人とも良く生きてたねぇ。リョウはともかく、キリト君は絶対死んだと思ったよ」
「何だよそれ……」
「兄に勝る弟など居ない!ってな」
「そりゃいくらなんでもあんまりだリーファ!」
「えぇ!?私何もそんな事言ってないわよ!」
「はっはっはっ」
「叔父さんは意地悪ですねえ……」
キリトとリーファがワーキャー騒いでいるのを横目に、リョウは周囲に広がる風妖精の都を眺める。この都市は、ゲーム内で通称《翡翠の都》と呼ばれているらしい。その名に違わず、いくつもの細い作りの尖塔群が空中回廊でつながり、すべてが美しく淡く緑色に輝いている。夜空に実に良く映える光景だ。と……
「リーファちゃん!無事だったの!」
そんな思考の中に、少年っぽい少しネガティブさを感じさせる声が割り込んだ。
声の聞こえた方へと首を向けると、こちらに……というかおそらくはリーファにぶんぶんと手を振りながら走り寄ってくる黄緑のおかっぱ頭に少し弱気そうな顔をした少年シルフが見える。
「あ、レコン、うん。どうにかねー」
「凄いや、あの人数から逃げ切るなんて流石はリーファちゃん……って……」
友人の無事に今まで視野が狭窄していたのだろう。ようやくこちらに気付いたようで、瞬時にあわてたような顔をする。
「す、スプリガン!?それにサラマンd「俺はプーカだ!」え、へ?」
間違えようとしたレコンの言葉に、自分の容姿から勘違いされる事を想定していたリョウが即座に割り込む。
もともと、プーカと言う種族には他の種族に有る種族のテーマカラーと言うのが無い。しいて言うならばカラフルなのがテーマカラーと言える種族だ。唯そのため、ランダムに容姿が設定されるALO内ではアバターの特徴が他の種族と似るケースが有る。その代わりなのか何なのかは分からないが、プーカ族の瞳は他の種族と違って明るいような暗いような不思議な光を放つ眼が設定されてので、それで見分けを付けるのだ。
というわけで、リョウは自分の目をさしながら「良く見ろ!」と訴える。レコンは覗き込むように確認した後、「あ、ホントだ……」と小さく呟いた。が我に返ったように再び腰のナイフの柄に手を伸ばす
「って、どっちにしても……!」
「あぁ、良いのよレコン。この人たちに助けてもらったの」
「へっ……」
ポカンとしているレコンをよそに、リーファはキリトとリョウに向き直りレコンを指差す。
「こいつはレコン。あたしの仲間なんだけど、ふらりと会う少し前にサラマンダーにやらちゃったのよ」
「そりゃすまなかったな。よろしく、俺はキリトだ」
「あ、どもども……」
流されるままにキリトと握手をするレコンを相手に、リョウが続く。
「リョウコウだ。リョウって呼んでくれや」
「あ、はい。レコン……です」
「ん……レコンって、Rekon?」
「あ、いえ。cです。Recon」
「へぇ……」
レコンの名前の綴りを聴いたリョウが、面白いものを見たように二ヤリと笑う。それを見て、キリトが首をかしげた。
「なんだよ兄貴。知り合いか?」
「いや、違ぇけどな。レコン。お前その名前ネタか?」
「え……」
再びポカンとした顔を浮かべるレコンに、リョウは続ける
「ホントは《リーコン》って読むんじゃね?」
「え、は、はい!え、って分かるんですか!?」
此処に来てようやくレコンは思考が追いついたようで、驚いたように目を見開く。
Reconとは本来、アメリカの特殊部隊における威力偵察を主任務とした部隊の名称だ。偵察とはいってもその権限は多岐にわたり……と、それは置いといて、だ。レコンはどうやらこの話題に食いつけると思っていなかったらしく、かなり興奮している。
「あぁ。そういうの好きな奴がダチに居てな」
「うわっ!うわっ!凄い!この名前の由来分かる人に初めて会いましたよ僕!」
「ははっ!そりゃファンタジーゲームでそのネタは普通使わねぇだろうからなぁ」
「あはははは……やっぱりそうですよね。しょうがないんですけど、でも自分なりに能力《キャラメイク》はそっち寄りなんですよ!」
「へぇ?偵察主眼のキャラなのか?」
「はい!たとえば……」
共通の話題で話せる事が嬉しいらしいレコンは笑顔のまま話を続けると、不意に口の中で何かをぶつぶつと言い始める。
「エル・トラス・ウィレ……」
『成程。これが呪文《スペル》か……』
《聞き耳》でレコンが何を呟いているのかが分かったリョウはその幾つかに分かれた《力の言葉》を聴きながらそんな事を思う。とすると、これが自分たちの世界には無かった新しい力……
次の瞬間、レコンの姿が消えた。
「おぉっ!?これが魔法か!」
「へぇ。透明化の術か?」
「うん。《ホロウ・ボディ》っていう自己隠蔽魔法よ。結構な上位スペルだけど、レコンの十八番なのよ。これ」
キリトが驚き、感心したように言うのにリョウが続き、リーファが解説すると、レコンが術を解き、再びその場に現れた。
「なーるほど。こりゃ下手したら本職の人間よりも見つかりにくいかもなぁ」
「でしょう?これ出すの苦労したんですよ~」
「だろうな。隠蔽魔法スキルのマスターってとこか?」
「それに隠密行動のスキルもなんですよ」
「うわっ、そりゃ大変だなぁ」
リョウとレコンの会話に、スキルの時点でその苦労を理解できるキリトも混ざる。リーファは軽くあきれ顔だ。
「っておいレコン。お前それ使えるってことは……今まで“なんか”したんじゃねぇのか?」
「えっ!?いや、な、何言ってるんですか。何も……「前に一回、宿の私の部屋に勝手に入ったの忘れたとは言わせないわよ」り、リーファちゃん!」
リョウの二ヤリと笑った視線から来る質問を、なんとか逃げて躱そうとするレコンだが、リーファに逃げ道を塞がれる。次の瞬間、キリトとリョウの顔がニヤニヤと笑った。
「ほほぅ?他には?」
「な、無いですよ!他には無いです!」
「嘘つけこのやろぅ……さぁ吐けっ!」
と、行き成りリョウがレコンの首に腕を絡ませ組みついた(システム障壁の発動しないギリギリの力加減で)。顔を真横に寄せ、ニヤニヤと笑う。
「吐けっ!楽になっちまいな!」
「な、何もしてません!ホントです!リーファちゃん!」
「……吐きなさい」
「そ、そんなぁ!キリトさん!」
「悪い。そうなった兄貴止める方法知らないんだ。俺」
助けを求めるレコンに、リーファは冷静な目で一言。キリトは苦笑して目をそらす。
「さぁ!吐けぃ!吐くのだぁ!」
「や、やって無いです!それでも僕は、やって無いぃ!!」
結局のところ、ネタに逃げたレコンだった。
────
戯れによってすっかりリョウ達を疑う気が失せてしまったレコンは、そのまま要件をリーファに伝えて飛び去って行った。ちなみに、リョウとはフレンド登録までしたようだ。
ただし、レコンとリョウを見てずっとリーファと二人で顔を見合わせ笑っていたキリトには別の意味での疑いが生まれたようだが。
「しかし、リーファは本当にアイテムの分配行かなくて良かったのか?」
「え?あ、うん。特に欲しいものは無かったし、約束は守る主義だしね」
「そうか……」
「っま、良いじゃねぇか。本人がそれで良いっつってくれてんだからよ」
そう言ってなだめるようにキリトを見ると、リーファも「そうそう」と同意してくれ、キリトも一つうなずくと納得したようで、別の話を二人は始める。.
途中リーファとレコンの関係等を話のタネに、リーファに案内された二人は少し小道を入った先にある、《すずらん亭》と言う小さな酒場兼宿屋の店へと入った。
「それじゃ、此処はあたしが奢るから、好きに食べていいわよ」
「おっ、良いねっ!太っ腹!」
「いや兄貴それは遠まわしに失礼だから」
「何だよ。別に体系的な事言ったわけじゃねぇぞ。つーかむしろ胸の方が……「あ~に~き~」へいへい。ったく、まじめだねぇ」
「はぁ……リョウのキャラが分かってきた気がするわ」
「そりゃ光栄だな」
はっはっはっと言いながらメニューを眺め始めるリョウを見て溜息をつくリーファにキリトが苦笑する。
結局、リーファはフルーツババロア、キリトは木の実のタルト、少々リーファは驚いたようだったがユイはチーズクッキー、それ以上に驚かれたリョウはフルーツパイとカルテットシュー、グランチーズケーキ、ハーブプリン、翡翠ごま団子を頼み、リーファの顔をひきつらせた。
「いやー、わりいなこんなに」
「そう思うなら少しは遠慮しなさいよ……」
「いやいや、先輩プレイヤーの財布を侮るような真似を知るのは失礼と存じましたゆえ」
「存じなくていいわよ……」
「パパ、なんで口を押さえてるんですか?」
「いや……やっぱこうなるんだなって……クク……」
飲み物の香草ワインとともに運ばれてきたスイーツ達を前にしつつ、笑ったリョウをリーファは少し恨みがましく睨み、キリトは笑いを抑えるのに必死になっている。
そのうち、リーファがもやもやを吹っ切るようにグラスを高く掲げる。
「あぁもう……!まぁとりあえず……改めて、二人とも助けてくれてありがと」
その声と同時に三人のグラスがチンッと涼しげな音を立て、冷たい緑色のワインを三人は一斉に口に流し込む。少し渋みのあるハーブのさわやかな香りが口の中に広がるとともに、程よい甘みが広がる。少し癖があるが、おいしいと思えた。
飲み終わった三人の中で、初めにキリトが口を開く
「いや、まぁ成行きだったし……て言うか、ほんとに好戦的な連中だったよな。ああいう集団PKってよくある事なのか?」
「うーん連中《サラマンダー》が本格的にやってきたのはここ最近かなぁ……もともと家《シルフ》と連中は仲悪いんだけど、最近のは……多分近いうちに世界樹の攻略しようとしてるんじゃないかって言われてる」
「それだ。その世界樹について教えてほしいんだ」
それから先は、しばらく世界樹に関する話が続いた。
現在のキリトの目的は世界樹の上に到達することだが、リーファ曰くすべてのプレイヤーは総じてそう思っているだろうと言う事だ。
曰く、何でも世界樹における《グランドクエスト》は、世界樹内部のガーディアン達を退け、その上にある《ユグドラシルシティ》に到達するという至極単純な物らしい。初めにその世界樹の上へ到達したプレイヤーは《妖精王オベイロン》に謁見し、自身の種族を高位種族の光妖精《アルフ》に生まれ変わらせてもらえる。アルフとなった物は、自身の翅に枷となってまとわりつく《飛行制限》を解除され、無限の空が約束されるのだそうだ。とは言え、そのガーディアン達が強すぎるおかげでオープンから一年が経過した今でも、そのグランドクエストはクリアされていないそうだが。
ちなみに多くの署名によるバランス改善の要求を出しても、運営側に突っぱねられたという。リョウはその話にどことなく違和勘を覚えたが、今はとりあえず目の前の甘味に集中する事にして、黙る。
そんなグランドクエストに対し、現在各種族が模索している方法は二つ。
一つは「何かキークエストを見逃しているから、それを探し出す」という方法、一応現在各種族が躍起になって探しているらしいが、それらしいものは見つかっていないらしい。
そしてもう一つが、「他種族との同盟を組んで、連合軍を組織。それによって突破する」という方法。しかしこれはリーファに曰く、絶対に無理だろうと言う事だった。何故なら、「初めに辿りついた種族のみ」がアルフに生まれ変わる事が出来るにも関わらず、「他種族との同盟」と言うのは、余りにも矛盾しているからだ。
結論としては、現時点での状況で世界樹への登頂は事実上“不可能”と言う事でリーファは結んだ。
「まぁ他にも生産スキル上げるとか、クエストを色々やるとか、飛びをするとか楽しみ方は色々あるけど、諦めきれないっていうのが本音だよね……一度飛ぶ事の楽しさを知っちゃうと……何年かかっても、いつかきっと……って思っちゃうよ」
それは、実にリーファらしい意見だと言えた。
おそらく、飛ぶ事が好きな彼女は心の底からどんなに時間をかけてもクリアしたいと思っているのだろう。だが……
「それじゃ、遅すぎるんだ!!」
そんな余裕な感情は、今のキリトには微塵も存在しないのである。
「……落ち着け」
「……ごめん」
不意に押し殺したような声で怒鳴ったキリトに、リョウが低い声で制止をかける。驚いた様子のリーファだったが、キリトが意気消沈したような様子で肩を落とすのを見て、その驚きが困惑に変わる。
「でも俺、どうしても速く世界樹に行かないと……」
「なんで……どうして、そこまで?」
リーファの上げた当然の疑問にキリトは難しい顔をして答える
「人を、探してるんだ……」
「ど、どういう事?」
「簡単には説明できない」
「リョウ……」
「わりぃな。こればっかりはちいと軽々しく言えねぇんだ」
リョウが苦笑して答えるのと同時に、キリトが、フッとリーファに笑顔を向けた。
「ありがとうリーファ。色々教えてもらって、助かった。御馳走様……最初にあったのが、君でよかったよ」
椅子を引いて立ちあがりかけたキリトの腕を、リーファは無意識のうちに掴んでいた。
いつかどこかで見たことがあるような……どうしても放っておく事の出来ない悲壮感を、キリトの眼に見たからだった。
「ちょ、ちょっと待って。世界樹に行く気なの?」
「あぁ。この目で確かめないといけないから……」
「り、リョウ……」
「っとになんつーか、すまねぇな……もともと、そのつもりで来てるからよ」
「でも……無茶だよ……」とリーファは口ごもる。きっと、リョウは見たところかなりの情報を調べているのだろう。それにこの二人は相当強い。戦力的な心配はかなり少ないはずだ。だが、ここでそのまま行かせると、後でずっと後悔するような……そんな奇妙な感覚がリーファの中をめぐる。
「あ、」と思った時には、もう口が動いていた。
「じゃあ──あたしが連れてってあげる!」
「え……」
「おいおい……」
スイルベーンから世界樹のある央都《アルン》までは、かなりの距離がある。
ALOでは高速移動手段である翅がある代わりに瞬間移動の手段は全く存在しないため、飛翔と徒歩で移動するしかない。距離的にも、小旅行に匹敵する十分な“旅”だと言うのに出会ってまだ間もないキリト達に動向すると言いだしたリーファにキリトとリョウは……そして誰より彼女自身が驚いていた。
「いや、でも、会ったばかりの人にそこまで世話になるわけには……」
「あぁ。つかお前だってアルンまでどんだけあるか分かってるだろ。いきなり過ぎやしねぇか?」
「いいの!もう私がそう決めたんだから!」
リーファ自身にも何故自分が此処まで本気になっているのか分からなかったが、それでも彼女はキリト達について行くと言い、頑として譲ろうとしなかった。
キリトは止めるより戸惑っていたようだったが、ある程度リーファの言っている事の意味が分かるリョウは何とかリーファを説得しようと奮闘する。
「いやしかしだな。お前だって領地云々から色々……」
「あたし、対して領地にこだわらない主義だし」
「納税とか」
「ノルマとかウチの種族ないし」
「脱領者《レネゲイド》……」
「完全に抜けるわけじゃないし」
「…………」
「……」
「ったく……分かったよ」
「はは……なんて言うか……じゃあよろしく。リーファ」
「う、うん!」
しばらく睨みあっていた二人だったが、やがてリョウが折れた。溜息をついてリーファの主張を通す。
状況が理解できていなかったキリトだったが、とりあえずリーファに案内してもらう事に決まった事は理解したらしく、微笑んでリーファに握手を求める。リーファは少し顔を赤くして、キリトと目を合わせないようにしながら手を差し出した。
「んじゃまぁ、出発は明日でいいか?」
「うん。そうね……明日の三時ごろ、またIN出来る?」
「あぁ」
「ん、三時か……」
「あ、都合悪い?」
「あーいや。大丈夫だ。なんとかなると思う」
「そう?じゃ、また明日ね!」
「あ、リーファ!」
そう言ってリーファ頬が赤いまま幾つかの操作を行い、ログアウトしようとする、それを、キリトが呼び止めた。驚いたようにこちらを振り向いたリーファに、キリトと、キリトの意思を察したリョウが言う。
「──ありがとう」
「サンキューな」
笑顔をとともに一つ頷いて、リーファは消えた。
────
「どうしたんだろう彼女」
「さぁ、今の私にはメンタル感知の機能がありませんから……」
「はぁ……」
あっけに取られたようにリーファの居た椅子を見つめるキリトと、分かっていないだろうユイを見て、リョウは一つ大きな溜息をつく。この鈍感は……
「俺は先に寝るぞ。お前も、今日はちゃんと寝とけよ」
「あ、あぁ。乙……「あ、それと」え……?」
「浮気すると、アスナに刺されるぞ」
「パパ!?」
「し、しないって!兄貴も何言ってんだよ!」
「さぁな。心当たりが無いなら良いが」
「パパ!だめですよ!だめですからね!」
「しない!しないから!兄貴!」
「はっはっはっ!せいぜい弁明したまえ少年」
「兄貴ィィィィィィィ!!」
キリトの悲鳴とユイの騒ぎ声を後ろに聞きつつ、リョウは部屋を取って二階に上がる。
指定された番号の部屋の中で横になると、直ぐにリンクアウトした。一時の暗闇の後、瞼を開け見慣れた自室の光景が広がっている事を確認する。
「さてと……」
「今日のダイブ終了っ!」一言呟いて、涼人はベットから立ちあがった。
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